沈黙の熱



 夏の日射しは強く、望美の身体は確かに熱を帯びていた。日射しの強さが、うだるような熱さ
が、自分が確かに今と言う時を生きているのだと望美に感じさせていた。
 しかし、今は違う。
 荒々しく奪うような接吻ではあったが、その激しさに反して彼の唇は、望美に優しい温もりを
伝えていた――。
 それなのに、触れた唇から感じたはずの温もりは、知盛の言葉によって瞬く間にその姿を―
―名残さえも消した。
「最高の嫌がらせ……だろ。白龍の神子殿……」
 クッと、嘲笑うように望美を見た知盛は、とても美しい顔をしていた。望美の心を奪ったその
美しさは、再び還ってきたこの運命でも変わらない。
 何度運命を重ねても、決して交わりはしないその運命に、望美は哀しく瞳を揺らす。
 最低……。そう言うべきなのだろう。信じられない――と。それが知盛の望んでいる言葉なの
だろうから――。
 しかし、望美はうまく口を動かすことが出来なかった。
 ただ、大きく瞳を開き、知盛の顔を見るのが精一杯だった。
「つまらぬ……な」
 何の言葉も返さない望美に知盛は退屈そうに言う。
 その言葉に望美の心は軋んだが、それを知盛に悟られるわけにはいかないと、平静を保っ
た。
「嫌がらせも何も、こんなの、別にどうってことないし……」
「そう……か。こんなことでは、神子殿は動揺しないか……。動揺するのは、有川……の方か」
 楽しそうに言う知盛を酷いと、冷たい男なのだと思いながら――。
 それでも知盛を思ってしまう自分がいることが悔しかった。
「将臣君には……言わないで」
 余計な心配をかけたくはなかった。
 望美の震える声に、知盛は一瞬不快そうな顔を見せ、ただ一言呟いた。。
「そう……か」
 誤解された。自分が本当に好きなのは、将臣ではなく――。
 しかし、望美は、知盛の顔を見るのが怖く、また、言葉を重ねたところで決して届かないであ
ろう自分の本心を伝えるのが辛くて、ただ黙りこくっていた。
 望美の出した沈黙と言う答えは、肯定を呼び――。
 そして、知盛はただ不快そうに黙っていることしかしなかった。
 知盛が何を言うのか怖くて、ただ俯いていた望美には、知盛がした小さな舌打ちの音も、不
愉快そうに歪められたその顔も知ることはなかった。
 その後はただ沈黙が二人を支配した。
 二人の運命が交差しようとしているこの瞬間を、望美は知ることはなかった。


 お気づきかもしれませんが、平家物語はキスをテーマに書いているのであります。しかしながら、今回やっちまった
感が満載な気が……。チモリは、なんかハッピーなイメージが合わなかったんです……。言い訳ですが……。でも、
一応、二人はお互い好きって設定なんです。