永遠と言う名の罰


「ごめんなさい。友雅さんのこと好きだけど、私・・・、帰り・・・たいの・・・」
 自分が言ったその言葉が、今も胸に突き刺さっている。あかねは深く
溜息を吐く。ひらひらと頭上に舞うものに、不意に顔を上げると視界いっぱいに桜の花が飛び
込んでくる。
「もう、春なんだよね・・・」
 あかねがあの不思議な体験をしてから、一年になろうとしていた。
 「みんな、どうしてるんだろう・・・」
 あかねは小さく呟く。
「友雅さん、元気かな・・・?」
 あかねは、表情を曇らせた。
「もう、奥さんとかいたりして・・・」
 自分の言葉に悲しくなってくる。 
「あーあ、どうして帰ってきちゃったんだろう、私・・・」
 あかねは、自分の手のひらを見つめながら言った。
「神子殿といつまでもこうしていられたら良いのだが・・・」
 そう言って、あかねの手を握り締めた友雅の手のぬくもりが、今でも残っているような気がす
る。
「あったかい・・・」
 あかねは自分の右手をじっと見つめる。
 最後の時の友雅の表情が忘れられない。握った手を離したときの風の冷たさを今でもはっき
りと覚えている。
 決して離さないと思っていたのに、自分のわがままでその手を離してしまった。
 彼の永遠の女でありたい、彼の桃源郷の月でいたい・・・、ずっと。自分の身勝手な思いで一
番傷つけたくない人を、愛しい人を裏切ってしまった。
「ごめんなさい・・・、ごめんなさい友雅さん・・・」
 その時、不意に強い風が吹いた。

 無数の桜の花びらが舞う。そして、あかねの手のひらにいつかと同じ四葉のクローバーが乗
っていた。
「友雅さんが、毎日夢に出てくるから、友雅さんのこと忘れられないんだよ・・・」
 そう呟くあかねの頬を一筋の涙が伝い、手のひらに落ちる。
 あかねは涙ごと、四つ葉のクローバーを力いっぱい握り締めた。
 そして、その手のひらをゆっくり開いたとき、四葉のクローバーは、風に乗って遠くへと消えて
行った・・・。

                          終
「万代と 心は解けて 我が背子が 摘みし手見つつ 忍びかねつも」 と言う歌が万葉集にあるのですが、何とも切
なくて気に入っております。 そんな訳で、この歌をイメージして書いてみました。