幸せの在処

「あかね、大丈夫かい?」
 先ほどから、ずっと隣で咳き込んでいるあかねを気遣い、友雅は自分のマフラーをあかねに
巻いてやる
「いいよ。友雅さんが風邪ひいちゃう・・・」
 そう、友雅を気遣いながら、まだ咳き込みながら、あかねはマフラーを返そうとする。しかし、
それは友雅の大きな手によって止められた。
「そんなに咳き込んでいるんだから、巻いていなさい。私は、こうして君にくっついていれば暖か
いからいいんだよ」
 そういうと、友雅はあかねの手をぎゅっと握る。
「あかね、君、熱があるんじゃないかい? 」
 握ったあかねの手がいつもより熱いことに気付き、友雅があかねの額に手を当てる。
「大丈夫だから・・・」
 あかねは、友雅に心配させまいと無理して微笑む。
「すごい熱じゃないか。あかね、すぐに帰ろう」
 
 友雅はあかねの手を引く。しかし、あかねは動こうとしない。
「あかね?」
「だって、今日はバレンタインなんだよ・・・。友雅さんにケーキも作ってきたし、これから一緒に
プレゼントも見ようと思ってたのに・・・」
 しかし、そう言っているあかねの顔はとても赤く、熱がひどく高くなっている事を友雅は感じず
にいられなかった。
「あかね、プレゼントなんていいから、帰ろう?」
 友雅は気遣うようにあかねの顔を覗き込むが、あかねはじっとしたまま首を縦に振ろうとはし
ない。友雅には、あかねの言うこのバレンタインというイベントが、どれほど大事なものなのか
は理解できなかった。
「あかね、言うことを聞かないなら、無理やりにでもつれて帰るよ」
 友雅はそう言うと、軽々とあかねを抱き上げスタスタと歩き始める。
「友雅さん、降ろして!! 恥ずかしいよ・・・っ」
 あかねの抗議も耳に入らないのか、友雅はそのまま駐車場まで歩き続け、あかねを後ろの
座席に乗せる。
「着くまで横になってなさい」
 あかねは、二人で始めて迎えるバレンタインに風邪をひいてしまった自分をひどく恨んだが、
熱で思考能力が低下しているあかねは、いつの間にやら眠ってしまっていた。
 あかねが目覚めた瞬間目にしたのは、どこかに電話をかけている友雅だった。
「はい・・・。今日はこちらで休ませます。はい・・・、はい・・・。明日、送りますんで。それでは、失
礼します。」
「友雅さん、どこかに電話?」
「ああ、君の家にね。今日は、君を預かりますって・・・」
「えっ? だって、友雅さん帰るって・・・」
「君は、この日をとても大事に思っていたみたいだから、今日は私が君の看病をすることにした
よ」
 そう言って微笑み、友雅はあかねに体温計を渡す。
「少し、熱を測ってみようか? 食欲はあるかい?」
「あんまり・・・」
あかねは、体温計を受け取りながら答える。
「そうか。しかし、薬を飲むためにも少し食べないとね・・・」
 友雅は困ったようにあかねを見つめる。
「おかゆなら食べられるかい?」
 友雅が訪ねたとき、丁度体温計がピピッと鳴った。
 あかねが取り出した体温計を友雅が見てみると、体温計は三十九度を示していた。
「やはり熱があるとは思っていたが、ここまでだったとは・・・。尚更、何か口にして、薬を飲まな
ければならないようだね」
 友雅はそう言うと、あかねにしっかりと布団をかけてやり、料理の本を片手にキッチンへと向
かった。キッチンからは、多少不安が残るような物音はするが、友雅なりに頑張っておかゆを
作ってくれているらしい。
「さあ、あかね。私が作ったから味の保障は出来ないが、何か口にしないと薬が飲めないか
ら、食べようか」
 そう言うと、友雅はおかゆをレンゲで掬い、あかねが火傷しないようにフーフーしてから、あか
ねの口へと運ぶ。
「どうだい?」
 友雅は心配そうにあかねを見る。
「おいしい」
 そう言ってあかねは微笑んだ。友雅はホッとしたように微笑むと、また一口、あかねの口に運
んでやる。
 食事を終え薬を飲むと、あかねはすっかり深い眠りへと落ちていった。眠っている間、友雅が
ずっと手を握っていてくれていたせいか、いつもならうなされてしまうのだが、その夜はうなされ
ることもなく、ぐっすり眠ってしまった。
 
翌朝目覚めたとき、あかねの手を握ったままいつの間にか眠っていたらしい友雅の寝顔を思
いがけなく見たあかねは、なんだかとても幸せな気持ちになったのだった。

                       

                       終

取りあえず、看病ネタって言うのを書いてみたいというのと同時に、書いたときはバレンタインが近かったので、合体
させてみました。甘々って、あまり書かないものでどんなものか、本人的にも疑問です。