京ラブストーリー<第一話>
飽きた・・・」
 龍神の神子様こと元宮あかねは急にボソッと口にした。
「えっ? すみません、神子様。聞こえなかったのですが・・・」
 藤姫は、申し訳なさそうに聞き返す。
「飽きた!! 飽きた!! 飽きたー!! もう、あかね、龍神の神子なんて辞める! 普通k
女の子に戻る!!」
 あかねは、藤姫の前に仁王立ちし、声高らかにそう宣言した。
「辞めるといって辞められるものではないのですよ、神子様」
「その呼び名も飽きたー」
「そうおっしゃられましても・・・」
 藤姫は困った様子で首をかしげる。
「もっとねー、こう、何て言うのかなー? こう、胸がキューッと締め付けられるようなことがしたい
の、それこそいまで痛くなっゃうようなことがしたいの、アタシはー!!」
「胸がキューッと締め付けられるようなことですか? そうですね。たとえば京がもし救われなかっ
たら・・・と思いますと、私は胃が痛くなって参りますが・・・」
「うーん。そう言うんじゃなくってー、もっとこう、ドキドキしたりとか、ハラハラしたいの」
「ハラハラですか・・・。私は、神子様が龍神の神子をお辞めになって、京が救えなくなったらと
思いますと・・・」
 藤姫は、ますます表情を曇らせる。
「アー、何て言うかぁ、アタシは恋がしたいの」
 あかねは、夢見がちにうっとりしながら言った。
「恋愛・・・ですか?」
「So!! アタシは、恋がしたいの」
 あかねは、鼻息も荒く、拳を握り締める。
「ならば、簡単ですわ。神子様の周りには、天真殿や詩紋殿・・・。他にも素敵な殿方がたくさん
いらっしゃいますもの。どなたかと恋に落ちたとしても、龍神様はお怒りになられませんわ」
 藤姫は、やっとあかねのために名案を思いついたとばかりに満面の笑みで言った。
「アー、ダメダメ。あの人たちねー、あたしのこと女だと思ってないから。あくまで龍神の神子ち
ゃん扱いだし・・・。訳わかんないトラウマばっかり話すしさぁ。はっきり言ってちょっとウザいん
だよねー、マジで」
 あかねは、面倒臭そうに頭をポリポリ掻く。
「とら・・・うま? うざい・・・?」
 藤姫は、不思議そうな表情であかねを見る。
「うーん、とらうまっていうのはー、なんていったらいいかなー。かこにあったいやなこ戸とかが
そのままこころのきずになってるっていうの? そういうこと。で、うざいっていうのは、私には、ち
ょっとにがおもいかなっていみ」
 あかねは、勝手な解釈を付けて、藤姫に説明した。
「まあ、そうでしたそれで持って、か? でもそれは、皆様が神子様を信頼しているからこそ、そ
のような話をなさっているんですわ。荷が重いなどおっしゃらないで下さい、神子様。神子様は
立派な方ですわ」
「うーん、そうかもしれないけどぉ、何て言うかーアタシはみんなのカリスマでいるよりは、たった
一人の誰かのお姫様でいたい、みたいな? 王子様をめぐって他の女と争って傷ついたり、落
ち込んだりしちゃったり? 何て言ったらわかりやすいのかなー? こう、ドラマみたいな恋がした
いの」
「どらま・・・?」
 藤姫は、またわからないと言った表情であかねを見る。
「ドラマって言うのはね・・・。あたしたちの世界には、テレビって言うのがあって、そのテレビで
ね、架空の男女がこう・・・、色々ありながら恋愛していく様が見れるの。まあ、たいていは美男
美女がやるんだけどね」
「そうなんですか。それで、神子様、そのドラマというのは、面白いんですの?」
「もう、やばいね、マジで。見逃したら、死ぬね! いや、実際には死なないんだけど、
 それぐらいの勢いで毎回見逃せないって感じ。毎回ハラハラ、ドキドキ。胸がキューッて締め
付けられる感じなの」
「はぁ・・・」
「そうだ!! 藤姫、ドラマ見ようよ!!」
「ですが、神子様・・・。ここにはテレビ? というものは無いですし・・・」
「大丈夫!! 要は、芝居が見られれば良いんだから。今日はどうせ物忌みで部屋から出られな
いし。こんなこともあろうかと、八葉の皆さん全員に文を出しておいたんだー」
 あかねは、自慢げに胸を張る。
「まあ、神子様、そうですの。それでは、皆様、早くおいでになられると良いですわね」 藤姫
は、にっこりと微笑む。
「そうだねー。誰が一番先に来るのかも楽しみだよね」
「そうですわね」
 あかねと藤姫がそんなことを話していると、最初の八葉がやって来た。

                          
                                     続く