京ラブストーリー<第二話>

おはよう、あかねちゃん。僕、物忌みに来るのって初めてだから早起き・・・」
「あんだよー、詩紋君が一番かよー。かったりぃなー、オイ」
「まったくですわ」
 あかねも藤姫も心底ガッカリしたように、大きくため息を吐く。
「あたし、頼久さん辺りが一番だと思ったんだけどなぁ」
「そうですね。頼久も色々と忙しいのでは?」
「でもさぁ、頼久さん、同じ屋敷内にいるしさぁ、何か犬みたいだから朝早いと思ったんだけどな
ぁ」
 あかねは全くもってつまらないといった顔をする。
「あら、神子様。早起きでしたら永泉様が早いのではありませんか? 僧侶ですし・・・」 
 藤姫は、思い出したように言う。
「あのぉ、あかねちゃん・・・」
「永泉さんは遅くてもいいの。主役は後からやってくるものなのよ」
「まあ、そうなんですの?」
「そうなんだよー」 
 藤姫はなるほどと言った感じで頷く。
「あのぉ、あかねちゃん・・・」
 その声に振り返ると、詩紋が俯き立っていた。
「ああ、詩紋君。何? どうしたの?」
「あのね、今日、物忌みじゃない? それで、ボクのこと呼んでくれたんでしょう? 他にも、誰か来
るの?」
 詩紋は、少し落ち込んだように言った。この少し落ち込んだ風な表情が、年上女性の母性本
能をくすぐるなどと勘違いしちゃってる詩紋は、この表情をことある毎にするが、あかねはこの
表情にイラつきはしても、母性本能がくすぐられる様な事は無かった。
「あー、今日ねー、みんなに来てもらうことになってんだよねー」
「そういうことですの」
「えっ、そうなの? 僕、てっきりあかねちゃんと二人っきりだと思ってたのに・・・」
 詩紋は、再び表情を曇らせる。
「ヤダ!! 詩紋君、二人っきりでアタシに何しようと思ってたの? イヤラスィー!!」
「まあ、そうなんですの、いやらしい」
 藤姫までも軽蔑したような目で見る。
「ボッ、ボク・・・。そんなこと全然考えてないよ!!」
 詩紋は必死で否定したが、元より詩紋のことなど相手にしていない二人は、詩紋の話を聞い
ていなかった。
「ったくさー。何で詩紋君が一番乗りなわけ?  はっきり言って、つまんないよねー、この展
開・・・」
「仕方ありませんわ、神子様。詩紋殿は同じ屋敷に住んでいて、特別仕事も無いのですから、
暇なんですもの」
「そうだよねー。八葉としての任務を果たさず、読書中とか言ってすぐサボるし・・・」「サボる?」
「ああ、詩紋君みたいに自分の役割、果たさないことをそういうの」
「そうなんですか?」
「それにさー、詩紋君より天真君のほうが先でもいいじゃない? 同じ屋敷に住んでるって言うな
らさー」
「まあっ。神子様は天真殿がお好きなんですの?」
 藤姫は、ワクワクしながら尋ねる。
「あっ、あかねちゃん、そうなの?」
 最近、なぜかあかねに心奪われ気味だった詩紋は、驚いて尋ねた。
「ちょっと、冗談やめてよー。天真君相手にラブなんて、思えって言うのが元々無理な話しだし。
だって、天真君ってシスコンじゃない」
 あかねは、本当に勘弁して欲しいと言った感じで言う。
「しすこん・・・?」
 藤姫は、あかねの言葉の意味がわからず、首を傾げる。
「あー、シスコンって言うのはねー・・・」
「あかね、オレはシスコンじゃねぇぞって。何回言ったらわかるんだ?」
 その言葉から発せられる何とも言えない圧力に三人はゆっくりと振り向く。

                                 続く