夢のあと


先程、不意に気を失ってしまってから、愛しい姫は規則正しい寝息を繰り返している。 友雅は
自分の膝の上で、安心しきったように眠り続けるあかねを慈しむように見つめた。
「神子殿・・・」
そう呟くと、友雅はあかねの柔らかな髪をそっと手で梳く。自分には情熱などないと思ってい
た。いや、とうの昔に失くしてしまい、忘れ去ってしまっていたものだった。
「まさか、自分がこんな感情を抱く日が来ようとは・・・。」
 友雅は自嘲するように笑った。今までの人生で経験し学習したことは、この小さき姫の前で
は全て無力であった。傷つくことを恐れた自分は、偽りの自分を作り上げ、いつしかそれが本
当の自分であると信じこんでいた。
しかし、その姫によって自分でも封印していた自分は、姿を現してしまった。いつか、月に帰っ
てしまう、この姫によって・・・。
 それならば、この姫の側に出来る限りいよう。 少しでも、彼女の記憶に残っていられるよう
に。彼女が少しでも自分のことを思い出してくれるように・・・。
 そうして、友雅はあかねの髪を撫でる。脳裏に焼き付けるように・・・。
 すると、髪を撫でる友雅の手に、そっと重なる手があった。
「友・・・雅さん・・・。」
小さく細い手が、友雅の存在を確かめるかのように、彼を探る。
「ここにいるよ、神子殿・・・。」
そう言うと、友雅は、優しくあかねの手を握り締めた。
 その声が耳に届いたのか、ほっとしたように友雅の手を握り返し、少し微笑んだように見え
た。
「君が望むのなら、いつでもこの身を投げ出そう・・・。君一人が、私の幸せなのだから。」


日射しの強い夏の日、この京では鬼との戦いに終結を迎えていた。異世界の住人である龍神
の神子、元宮あかねは、元の世界へは戻らなかった。
今、彼女の側には愛しい男がいる。
彼女によって、情熱を取り戻した男が・・・。
「おいで姫君。私の元へ・・・。」
どこまでも続く青い空は、二人の行く末を祝福してくれているようだった・・・。



終   

これも、友人にあげた話。最後の物忌みのときって、八葉それぞれ思うところあるんだろうなーと。特に、京の人々な
んて色々考えてしまうんじゃないでしょうか? そのうち、永泉版も書きたいなーと思っている永宮だったりします。