恋は益すとも



「あーあ。友雅さん、将来ぼけちゃってくれないかなー。 すっごいはげちゃって、歯も抜けちゃ
って・・・もう、 イヤなおじいちゃんになってくれないかなー」
隣で眠る友雅を見つめながら、あかねはつぶやく。
「あかね・・・。起きていたのかい?」
 友雅は、まだ少し眠そうに、しかし優しく微笑み、そう言った。
「ねえ、友雅さん」
「何だい?」
「友雅さんがいなくなっちゃう時は、すっごいかっこ悪くなってからにしてね」
あかねは、真剣な顔で言う。
「また急に、どうしたんだい?」
友雅は不思議そうに尋ねる。
「だって、友雅さんは、私より十五歳も年上だし、どう考えたって、友雅さんのほうが 先に逝っ
ちゃうでしょ?かっこいいまま逝っちゃったら、向こうでいろんな女の人にもてちゃうし、それ
に・・・」
「それに何だい?」
俯いているあかねの顔を覗きこみながら聞く。
「それに、かっこいいまま逝っちゃうなんてあまりにもかっこ良すぎて、 ずるいし、悔しいじゃな
い!!」
あかねは、友雅の着物をギュッと握り締める。
「やれやれ。困った姫君だね、君は。私は、かっこいいまま死んで、 君の思い出の中で美しく
生きたいのだが・・・」
「ダメ!!」
あかねは、着物を握り締める力をますます強くし、友雅の胸元に顔を埋める。
「すっごい、イヤなおじいちゃんになって、みんなに嫌われながら、 それでも生きて」
「じゃあ、私が死ぬ時は、君も道連れにしてしまおうか」
あかねは、その言葉にコクンッと小さくうなずく。
「やれやれ。困った姫君だ・・・。これじゃあ、私は一生死ねないじゃないか・・・」
「じゃあ、ずっと生き続けて。私が死んでも。」
「あかねが死んでも?」
「うん」
「じゃあ、あかねが死んでしまった後は、どうしようか。
新しい姫でも探そうか?」
友雅は、意地悪くそう言う。
「ダメ!! ダメじゃないけど・・・イヤ・・・」
あかねは、ぱっと顔を上げるとそう叫んでいた。
友雅は、そんなあかねの頭をポンポンッと叩くと、微笑んだ。
「じゃあ、君も、イヤなおばあさんになって長生きしておくれ」
「イヤなおばあさん?」
「そうだ。そして二人で、イヤなおじいさんとおばあさんになって、
みんなに嫌われながら、一緒に生きるんだ。」
「でも、友雅さん、私のこと嫌いになっちゃわない?」
あかねは、不安そうに友雅を見上げる。
「君は、私のこと、嫌いになるのかい?」
友雅は逆にあかねに尋ねる。
「ううん。友雅さんがどんなになっても、私だけは、ずっと友雅さんが好きだよ」
あかねは、恥ずかしそうに、しかし、はっきりとそう言った。
「私も君が、どんな女になろうと、好きだよ」
友雅はあかねを見つめ、微笑む。その笑顔にあかねも微笑んだ。

  

終        
 
 「百年に 老舌出でて よよむとも われはいとはじ 恋は益すとも」 という和歌が万葉集にあるんですが、読んだ
とき、良いなあって思ってしまいまして、書いた話です。本当は、友人にあげた話なんですが、載せてしまいました(苦
笑)。そんな訳で、友人のホムペにも、同じ物があります(笑)。