京ラブストーリー<第四話>


「友雅さん。大変申し訳ないんですけど、線香臭いんで近寄らないでくれますか? アタシまで線
香臭くなると困るんで」
 あかねは心底嫌そうに言うと、友雅を突き飛ばした。
「神子殿・・・。この私にそのような態度・・・。今までの姫君とはやはり違うようだ。ますます興味
が湧いてきたよ・・・」
 友雅はふっと笑った。
「神子殿。・・・?何故皆さんがここに・・・?」
「あー、鷹通さん。来たねー。鷹通さんもなかなか早かったね。やっぱり鷹通さんは、真面目だ
ねー。それにしても、頼久さん、おっそいなー」
「神子殿、お呼びですか?」
 鷹通の後ろから、頼久が姿を見せる。
「あっ、頼久っ!! はっきり言って、お前は遅すぎです。頼久は、アタシの家来なんだから誰より
も早く来るのが常識だと思うのね。自分でアタシの家来だって言ったからには、それらしくしても
らわないとアタシも困るんだよね」
「はっ。申し訳ありません、神子殿」
 頼久は膝をついて謝る。
「ねぇ、天真センパイ。あかねちゃん、頼久さんと何かあったの?」
「あっ。ああ。何か昨日、けんかしたみたいだぜ。あかねは頼久のこと仲間だって言ってたらし
いんだけど、頼久は、あかねの事自分の主だって言って譲らなかったらしいんだよなー。その
結果がアレだよ」
 天真は、あかね達のことを窺いつつ、詩紋に小声で耳打ちする。
「天真君、余計なこと言わないで!!」
 あかねのものすごい形相に、さすがの天真もビクッとした。
「とにかく、今度からは一番早くきなさい!! 何をしていてもどこにいても二十四時間、頭の中は
この主のことでいっぱいにしておきなさい。仕事をしてても、鍛錬してても、頼久の心全部で主
はこのあかね様だって言ってて!! アタシだけを見てて!!ちゃんと従ってて!! じゃないと、よその
主になっちゃうよ!!」
「神子殿・・・。畏まりました」
 頼久は何とも言えぬ喜びを感じながら答えた。
「あと三人かー」
「素敵な文と花に誘われてあなたの元へ参りました。神子、遅れてしまいまして申し訳ありませ
ん」
 急いで走ってきたのか、永泉が息を切らせながら入ってきた。
「いいの、永泉さん。だってあなたは私のたった一人の妖精だから。気にしないで。この赤ね、
あなたが待てというのなら、この身が灰になろうとも待ち続ける覚悟は十分出来てます。永泉さ
んを待つ時間も、アタシにとっては珠玉の時間ですから」
「神子・・・。そのような温かいお言葉をいただけるとは・・・。私にはもったいないくらいです。あ
りがとうございます」 
 永泉は、ポッと頬を赤らめる。それにつられて、あかねも頬を赤らめる。
「あそこまであからさまに態度が違うと、怒り通り越して尊敬の域に入るよな」
「あかねちゃん・・・。もしかして、永泉のことが好きなのかな・・・」
 詩紋が悲しそうに目を伏せる。
「えっ? お前、まさか、アイツのこと好きなのか?」
 天真は驚いたように詩紋を見るが、詩紋の背後の友雅、鷹通、頼久も同じように項垂れてい
た。
「何だよ、お前ら全員アイツのこと好きなのかよ?」
「天真センパイは?」
 相変わらず項垂れたままの詩紋が尋ねる。
「オッオレは、別に・・・」
「天真。お前、今偽りを語ろうとしなかったか? お前の気が一瞬乱れていた」
 いつの間に来たのか、天真の隣に立っていた泰明が言う。


                       続く