美しい人

 永泉が泰明の眼差しの先に見たもの。それは、この京を救うために異世界からやってきた龍
神の神子、あかねの姿だった。
「泰明殿も、神子を・・・」
 永泉は、泰明の今までと全く違う面差しに驚きを隠せなかった。
 今までこんなに優しい顔で誰かを見つめる泰明を見たことがあっただろうか? いや、無かっ
た。泰明は、あかねに出会い、あかねに恋したことで、何かが変わってきていた・・・。
 そして、その変化は泰明だけではなく、永泉の身にも起こっていることだった。あかねに出会
い、今までの自分を少しずつだが変えていくことが出来た。
 あかねは、今の永泉を否定することなく、それを受け入れた上で変わる努力をすればいい
と、今まで自分が一番欲していた言葉をくれた。そんなあかねに、永泉が心惹かれて行くの
は、当然のことだった。
 しかし、あかねが見つめているのは、泰明でも永泉でもなかった。
 しかし、この思いを止める術を二人は知らなかったし、また、どんどん加速していくこの思いを
止める術など、どこにも無かった・・・。
「・・・」
 泰明が無言で永泉を振り返る。
 永泉は、思わず視線を逸らした。
 自分の隠している思いが見透かされてしまうような気がして・・・。しかし、そんな風に目を逸ら
しても、泰明に永泉の思いは見透かされていた・・・。
 しかし、泰明は何も言わず目を伏せる。泰明もまた、自分の思いが届くことは無いとわかって
いた。あかねをいつも見つめている二人だから、あかねがいつも見つめている相手が誰かと
言うことは嫌でもわかっていた。
 しかし、二人は自分の思いをあかねに告げた。それは、過去の自分との決別。そして、新し
い旅立ち。
 あかねは、彼を選んだ。いつも、あかねが見つめていた彼。


 そして今日は、あかね達が元の世界へと帰っていく日。彼を連れて、もう二度と会えない世界
へと帰っていく日・・・。
「泰明殿、行かないのですか?」
 先ほどから黙ったまま、どんどん神泉苑と逆の方向へと進んで行く泰明を、永泉が小走りで
追いかけていく。
「行きたければ、行けば良い。私は行かない。それだけだ」
 泰明は振り返らずに永泉に言った。
「ですが、泰明殿。今日で、神子は元の世界に帰ってしまうんですよ? もう、二度と会えないの
ですよ? 神子のおかげで私たちは変わることが出来た。最後に、神子にお礼と別れを言いに
行きましょう」
 永泉はそういって、泰明の袖を掴む。
「先ほどから言っているだろう。行きたければ、お前一人で行けばいい」
 泰明は、永泉の腕を振り払い、どんどん先へと進んで行く。
「泰明殿が行かなかったら、神子が気にします。悲しみます。私たちは、仲間です。泰明殿、神
子と二度と会えないのですよ? 良いんですか? きっと後悔しますよ。神子が帰ってしまってか
ら後悔しても、どうしようも無いのですよ!!」
 永泉は、そう言って泣きながら泰明の腕を引っ張る。
 永泉の涙に、泰明も観念したように大人しくなる。永泉は泰明の腕を強い力で引き、神泉苑
へと向かった。
 しかし、二人が神泉苑に着いた時は既に遅く、そこには誰の姿も無かった。
「間に合わなかった・・・」
「行ってしまったようだな・・・だから、お前だけで行けと言ったのに・・・」
 泰明は、ため息交じりに、しかし、申し訳無さそうに言った。
「・・・」
「大丈夫だ、永泉。あの者が一緒なら、神子はいつも笑顔でいられる」
「・・・そうですね。あの方と一緒にいる神子が、一番美しかった・・・。あの方と一緒なら、神子は
きっといつも笑顔でいられる・・・」
 永泉はそう言って、微笑んだ。
「そうだな」
 泰明も永泉の言葉に同意し、微笑む。
 二人は、あかねのいる世界へと繋がる茜色の空を仰いだ。

                           終わり


キリリク内容が、永泉と泰明×あかねの三角関係の上に鳶に油揚げでした。でも、鳶が誰かはあえて書きませんで
した。まあね、ぶっちゃけ泰明のほうが割り切りはいいと思うのよ、本当は。なんだけど、私は永泉が好きなんで、永
泉びいきにしてしまった。それぐらいは許してくれるよね、ロミ・・・。多分、泰明は走ってる最中であかねが行っちゃっ
たのは、気付いてると思うの。でも、永泉が必死だから、あえて何も言わず一緒に走った。そんな友情で結ばれた二
人を書きたかったのですが、うまく書けてるでしょうか? ちなみにタイトルは、柴田淳さんの「美しい人」って言う曲から
頂きました。なんか、イメージが近かったんで。私、この二人には思い入れが強いんですよ。大好きなんだよ、本当
は。だから、この二人には、あかねがいなくなっても親友でいて欲しいなー。