月の姫


「友雅さん、私、友雅さんのことが・・・」
 アクラムとの最後の戦いの前日、友雅の元に来たあかねが友雅を見つめ、自分の思いを伝
えようとした。
「神子殿、それ以上は言わないでおくれ」
 そう言って、友雅はあかねの口に人差し指を持っていく。
「私は、君にふさわしい男じゃない。そして、君も私のような男にはふさわしくない姫君だ。だか
ら、君はそれ以上言ってはいけないよ・・・」
 友雅は哀しげに微笑んだ。
「君は、君の知らない世界にやってきて、不安で仕方ない。君がこの世界で初めて会ったのは
私だから、君は私を好きなのだと勘違いしているだけだ。君のそれは、恋じゃない。単に恋に
対する憧れだ。だから、神子殿、それ以上は言わないでおくれ」
「違います。私のこの気持ちは、そんなものじゃありません。私は、友雅さんが・・・」「私はね、
神子殿。ただの女に興味は無いんだよ・・・」
 あかねは、友雅のその言葉に言葉を無くす。
「さあ、もうお帰り。明日は、いよいよ最後の戦いだ。明日で君の運命も、この京の運命も決ま
る。ゆっくりお休み」
 友雅はそう言うと立ち上がり、あかねを置いて立ち去ってしまった。

 そして、戦いの日、友雅はあかねを見ようとはしなかった・・・。たったの一度も。
 戦いは無事に終結を迎え、あかねは元の世界へと帰る事を決意した。。
「でも、私のこの思いは、決して憧れじゃありませんでしたから・・・」
 今にも泣き出しそうな顔で、友雅にただ一言そう残していって・・・。

「そろそろ、神子殿は元の世界に帰ったのだろうか・・・」
 外にぼんやり浮かぶ月を眺めながら、友雅は呟いた。
 あかねが、自分に特別な思いを抱いていることは、友雅もわかっていた。
 しかし、友雅は、その思いを受け入れなかった。
 あかねの事を嫌いだったわけじゃない。むしろ、友雅はあかねに特別な感情を抱いていた。
だからこそ、あかねを受け入れなかった。
「これ以上大切な人になってから、失うのは辛過ぎるから・・・」
 友雅は、酒に浮かぶ月を一気に飲み干す。
「こんな風に、神子殿への思いも、神子殿も一気に飲み干せたら、どんなに良かったこと
か・・・」
 友雅はそういって再び杯に酒を注ぐ。そこには、またさっきと同じ月が浮かぶ。
「そうか・・・」
 友雅はやっと気が付いた。酒に浮かぶ月を飲み干したところで、月が無くなるわけではない
のと同じに、あかねを自分から遠ざけたからと言って、自分の胸を焦がすこの思いが消えてな
くなってしまうわけではないということを・・・。
「私は、全く・・・」
 友雅は、自分の愚かさに笑いがこみ上げてくる。
「神子殿の私への思いが、たとえ幻想だったとしても、私はその思いに縋るべぎたったん
だ・・・。それがどんなにみっともない行為だったとしても・・・」
友雅は、もう一生誰かに恋をすることは無いだろう。
 友雅の誰かに恋する気持ちは全て・・・、異世界から来た月の姫が持って行ってしまったか
ら。
 だから、この甘く苦い思いとともに友雅はこれからを生きていく。
 自分への罰として・・・。
 

                     終わり


すみません。友雅さんお誕生月計画だったはずなのに、悲恋になっちゃいました・・・。来週は頑張ります。いや、本
当に・・・。書いた時がかなり鬱ってたもので、友雅氏は、そんな永宮の犠牲になってしまいまして・・・。でも、ちょっと
浮上してきたんで、来週は、ハッピーなものを上げたいです。