そう言って、心ここにあらずと言った雰囲気の友雅に、女が恨めしそうに言う。 「いや、何でもないよ。美しい君に見とれていたんだ・・・」 そう言って、友雅は女に美しい笑みを見せた。 友雅の目が、その女を映していないことは女は良く解っていた。 しかし、体だけの関係の友雅にそんなことを問い詰めたところで、ただ鬱陶しがられるだけと 言うことも重々わかっていた。 「そうですか・・・」 納得したように呟くと、女は早くと急かすように友雅の首に腕を回す。 しかし、友雅は、そんな女の行為にも、心ここにあらずといった感じだった。 「友雅様・・・?」 友雅の首に絡みついたまま、女が不思議そうに友雅の顔を見上げる。 その時、友雅はあの小さな姫のことを思っていた。 今まで自分が出会ったどの女とも違う。 友雅は、少し考え込んでいたが、しばらくすると、女の手を自分の首から払い、立ち上がった。 「友雅様・・・?」 不思議そうに友雅を見る女とは対照的に、友雅は何か、清々しい顔をしている。 「悪いが、こういうことは、もうする気は無くなってしまってね・・・」 「・・・?」 「こういったつまらない生活はやめると言ったのだよ。今までとは、状況が変わったものでね」 「つまらない?」 女は、不愉快そうに聞き返す。 「そういう顔はするものじゃないね。君のせっかくの美しさが、心の醜さで台無しになってしまう」 友雅がそう言うや否や、女の平手が飛んでくる。 避けようと思えば、避けられるものだったが、友雅は敢えてそれを受けた。 「これで、気は済んだかい?」 友雅は、女に打たれた頬を手で押さえながら尋ねる。 「どうしてです・・・?」 「どうして? そうだね、私は、見つけてしまったのだよ。ずっと一生手に入ることは無いだろうと 思っていた桃源郷の月を・・・」 「とう・・・げんきょう?} 「君も、私のような不誠実な男ではなく、君のために死ねるような一途な男を探したほうがいい」 「誠実な男? 友雅様の口から、そんな言葉を聞く日が来るとは思いませんでしたわ・・・。友雅 様が、一番嫌いな類の人間じゃありませんか」 女が皮肉たっぷりに言う。 「その嫌いな類の人間になってみたいと思わせる姫君に出逢ってしまったのだよ」 友雅は微笑んだ。今まで一度も見たことの無かった優しい顔で。 「それでは」 友雅はそれだけ言うと、女の部屋を立ち去った。 今まで、来る者は拒まず、去る者は追わずで数々の浮名を流してきた友雅ではあるが、どん な女と体を重ねようと心を重ねたいと思う女は一度も現れたことは無かった・・・。 しかし、いつかは去る者とはわかっていても、手に入らないとはわかっていても・・・、心を重 ねたいと。追いたいと言う存在に生まれて初めて巡り会ってしまった・・・。それは、異世界から 来た月の姫、龍神の神子。京を守るために龍神が選んだ娘。 初めは、毛色が変わった姫程度にしか思っていなかったが、友雅の中で日々増殖していくこ の思いは、どうやら恋らしいと気が付いてしまった。 「気がついてしまったからには、走るしかないからね・・・」 友雅は、夜空にぼんやり浮かんでいる月を見上げる。 「あんなに遠い月でも、この手に入れることは出来るだろうか・・・? いや、手に入れて見せる。 この私が、本気を出すのだから・・・」 友雅は、そう言って、何とも美しい笑みを浮かべるのだった。 終わり
えーと、あかねは出てこないんですが、友雅氏がよく(?)「本気を出そうか・・・」とか、「情熱か、私には無いものだ
よ・・・」と言っているので、本気を出して情熱発見しちゃった友雅氏を書いてみたかったんで、書いてみました。友雅 氏、女に打たれちゃったし・・・。徐々にね、甘甘にして行くつもりです。今は、リハビリって感じです。でも、次も友×あ かじゃなかったりして・・・。 |