永遠なる誓い


                         

 天地と 言ふ名の絶えてあらばこそ 汝とわれと 逢ふこと止まめ  (柿本人麻呂集)


「オイ、あかね。お前、本気でやる気なのか? お前が思ってるほど、楽な仕事じゃねぇんだから
な」
 イノリがイライラしつつ聞く。
「わかってるよ。だからこうして一ヶ月前から、準備してたんじゃない」
 あかねはそう言って微笑む。
「ったく・・・。一ヶ月やそこらで、どうこう出来るほど楽な仕事じゃないっつってんだよ、俺は・・・」
 全くわかっていないといった感じでイノリがため息をつく。
「大丈夫。私、こう見えて、結構、手先器用なんだから」
 そう微笑むあかねの手には、鉄が握られていた。
「誕生日祝いなんて、何だって良いんじゃねぇのか? 永泉は、そんなの気にしないと思うぜ? 
あいつ、お前から貰うものだったら、何でも喜ぶんじゃねぇの?」
「わかってないなぁ、イノリ君。それじゃあ、意味が無いの。私が贈るたった一つのもので、永泉
さんが喜んでくれなくちゃ・・・!!」
 そう言って、あかねは額の汗を拭う。
「だからって、女のお前がすることじゃないと思うぜ? こういうのは、男の仕事だろ?」
「私の世界じゃ、男だから、女だからってのは、関係ないんだよ。こういうのは、お互いを思う気
持ちなの。私が永泉さんに作りたいんだから、それでいいの」
「そうだぞ、イノリ。この嬢ちゃん、なかなか良い腕を持っているぞ。いっそ、このまま修行して
みないか?」
 そう言って、イノリの師匠が笑う。
「それも良いかなー」
 あかねは冗談交じりに微笑む。
「そろそろ、いいんじゃねぇか?」
 そう言って、イノリがあかねの手元を覗き込む。
 イノリのその言葉に、イノリの師匠も後ろから覗く。
「そうだな。それぐらいで良いだろう」
 師匠が笑顔で頷く。
「うーん。もうちょっと綺麗に作りたかったんだけど・・・」
 あかねが、少し不満げに見る。
「まっ、良いんじゃねぇの。素人のお前が作ったにしちゃ、上出来だって。永泉もきっと喜ぶぜ」
 イノリがニッコリと微笑む。
「そうかなー・・・。うん、そうだね!!」
 あかねは、嬉しそうに微笑むと、それを綺麗に磨き始めた。
「でも、それって何か意味あんのか?」
 イノリは、不思議そうに尋ねる。
「意味があるって言うか・・・」
 あかねは、イノリの直球な質問に顔を赤らめ、俯く。
「何だよ、急に赤くなって・・・。言えよ」
 あかねが赤い顔をしたものだから、なぜかイノリもつられて顔を赤くする。
「ダーメ」
 あかねはそう言うと、笑った。
「何だよ、ケチだなー」
 イノリはちぇっと、口を尖らせる。
「あっ、永泉さんだっ」
「永泉さーん」
 あかねは、大きな声で、永泉に声を掛けるが永泉にはどうやら届かなかったらしく、振り返ら
ずにそのまま歩いて行ってしまう。
「今日なんだろ、アイツの誕生日。届けてやれば? 」
「うん。行ってくる。じゃあね、イノリ君。ありがとう。あと、お師匠さんも、ありがとうございました」
 あかねは、ペコリッと頭を下げると永泉が行った方向に向かって走って行った。

「永泉さんっ。結構、歩くの速いんですね」
 あかねは、肩で息をしながら永泉に微笑む。
「すみません・・・」
 永泉が、申し訳無さそうに頭を下げる。
「えっ、別に謝らなくても良いんですよ? ところで、永泉さんにさんに話があるんですけど、今、
時間良いですか?」
 あかねのその言葉に、永泉は顔を上げ、微笑んだ。
「いいですよ」
「ちょっと、目瞑ってもらえます?」
 あかねのその言葉に素直に永泉は目を瞑り、その後に続く言葉をじっと待つ。
 あかねは、永泉の手を取ると、手のひらの上に何かを置いた。
「・・・?」
「はいっ。良いよ、目。開けて」
 永泉が恐る恐る目を開けると、手のひらの上には、小さな鉄の環が一つ・・・。
「神子、あの、これは・・・?」
「永泉さん、お誕生日おめでとう」
 「誕生日・・・?」
「私の世界では、お誕生日には、物を贈ったりするんです。それで、イノリ君とイノリ君のお師匠
さんに教えてもらって作ったんだけど・・・。私から永泉さんへ・・・」
「神子が?」
「全然上手に出来なくて、さっきもイノリ君に笑われちゃったんだけどね。イノリ君にもお礼に腕
輪作ったんだけど、あんまり上手く出来なくて・・・」
 あかねが少し恥ずかしそうに永泉の手のひらの指輪を見る。
「神子・・・。ありがとうございます。何よりも、神子の気持ちが嬉しいです」
 永泉は、さっきまで誤解していた自分を恥ずかしく思った。
「それで、これはどのように使うのですか?」
 永泉は、手のひらの鉄の環を取り、あかねに尋ねる。
「これね・・・。こういうのって、私から言うの恥ずかしいんだけど・・・。私の世界では結婚を申し
込む時、相手に指輪を贈るの・・・」
「指輪・・・?」
 イマイチわかっていない永泉が、不思議そうに鉄の環を見る。
「これがね、指輪なんだけど・・・。永泉さんが還俗するその日が来たら・・・、私を、永泉さんの
奥さんにしてくれませんか?」
 あかねが、耳まで真っ赤に染めて永泉に言った。
「あっ、あ・・・っ」
 やっと事態が飲み込めた永泉が、真っ赤な顔であかねを見る。
「わっ、私から、言うべきことでした・・・。すみません。私から、改めて言わせていただけません
か・・・? 神子、私が還俗する日が来たならば、私の伴侶となってくれませんか? あなたがいれ
ば、私は強くなれる。どんな困難も、二人なら乗り越えられる。そう思うのです・・・」
 永泉は、あかねの手をそっと取る。
 あかねの左手の薬指には、永泉の手の中のものと同じ指輪がされていた。
「この指に付けるものなんですね・・・」
 永泉はそう言ってそっとあかねの薬指に口付ける。とても神聖な儀式のように・・・。「永泉さ
んの指輪貸して・・・」
 あかねはそう言うと、永泉の手のひらから指輪を取り、永泉の左手を取る。
「いい?」
 小さく尋ねるあかねに対し、永泉は笑顔で頷く。
 あかねは、永泉の左手の薬指にゆっくりと指輪をはめて、その指に口付ける。
 そのあかねの顔をじっと永泉が見つめる。永泉の眼差しに気付いたあかねが、顔を赤らめな
がら永泉を見つめる。永泉の左手が、茜色に染まるあかねの頬に触れる。二人の時間が一
瞬、止まる。
 そして、茜色の空の下、二人の影が静かに重なった・・・。
 

                         終わり

 えーと、今まで言いませんでしたが、永泉誕生日の企画のテーマは、キスの嵐です(恥)。私は、永泉が好きなん
で、やはり永泉サイトとして恥ずかしくないサイトにせねば・・・ってことで、テーマは、キスです。どっちかって言うと恥
ずかしいサイトになって行ってる気が・・・(愚)。なんで、この二人、他の話でも、今月いっぱいはキスしまくる予定です
(笑)。なんていうか、馬鹿な煩悩サイトの出来上がりって感じもしますが、お付き合いいただけると幸いです。