巡り逢えたら<第二部 真夏の果実(二)>

                      
「父上が良いとおっしゃったから、早く連れてって」
 彼女はそう言うと彼の腕を引く。
「すまないな。全く、いくつになっても姫らしくない・・・。少しは女らしくなってもわないと・・・」
 大臣は困ったようにため息をつく。
 そんな大臣の様子に、彼も困ったように苦笑した。
「遅くならないうちに戻ります」
 彼はそう言うと、大臣に頭を下げる。
「ああ、頼んだぞ。まあ、お前のことは信用してるから、大丈夫だと思うが・・・」 
 大臣のその言葉に、彼はまた頭を下げた。
「ねえ、早く連れてって」
 そう言って、先ほどから彼の腕をぐいぐい引っ張っていた彼女は、じれったそうに彼を見上げ
る。
「かしこまりました」
 彼はそう言うと、彼女を連れて、屋敷を後にした。


「うわぁ。ほら、お前もごらんなさいよ。すっごく綺麗な桜だわ・・・」
 彼女はそう言って、辺りを見回す。
「もう少し、上に行きますと、もっとよく見えますよ」
 そう言って、彼は彼女を見る。
「だめよ。私、疲れてしまったもの」
 そう言うと彼女は、地べたに座ろうとする。
「少々お待ち下さい・・・」
 彼はそう言うと、自分の懐から布を取り出し、彼女にそこに座るよう促す。
「汚れちゃうわ」
 彼女はそう言って遠慮したが、彼は首を振ると、そこに彼女を座らせた。
「ありがとう・・・」
 彼女は少し気恥ずかしそうに微笑み、礼を言う。 
「お前のこと、変わったと言ったけど、撤回するわ。お前は変わってなかった。相変わらず、優
しいもの・・・」
 そう言って恥ずかしそうに俯く。         
 彼は、少し困ったような顔を見せた。嬉しいようなそれでいて、申し訳ないような複雑な表情
だった。
「お前とね、桜が見たかったの。ううん、お前と二人で、こうして出掛けたかっただけなの、本当
は・・・」
 彼女のその言葉を彼は何も言わず、ただ聞いていた。
「小さい頃は、よく二人でいろんな遊びをしたわよね。こうして、山に桜を見に来たこともあった
わ。いつからかしら? お前が私と遊んでくれなくなったのは・・・」
 彼女は、桜の花を見上げながら呟く。
「さあ・・・」
  彼は、そう言いながら、あの日の事を思い出していた。

                                  続く