巡り逢えたら<第二部 真夏の果実(五)>

 そして、婚儀がいよいよ明日に迫った朝のことだった。
「姫様がどこにもいらっしゃいません!!」
 そういって、女房が青ざめた顔で走ってきた。
「どこにもいないって、一体どういうことだ!!」
 大臣は、彼女に尋ねる。
「その・・・、私が先ほど姫様を起こしに参りましたところ、寝所から、姫様の御返事がなかった
ものですから、失礼かとは思いましたが寝所を覗きましたところ、姫様の姿がなくて・・・。あ
あ・・・、一体どうしたら・・・」
 そう言って、女房はうろたえる。
「こんなことをしてる場合じゃないだろう。早く、捜すんだ!!」
 大臣は屋敷の者達にそう言う。その言葉に、屋敷の者たちが、みな散り散りになって駆け出
した。
「ああ・・・。一体どうしてこんなことに・・・」
 大臣は、頭を抱えその場に崩れ落ちる。
「私が良かれと思ってしたことは間違いだったのか・・・?」
 彼は、背後に大臣の言葉を耳にしながら、駆け出した。

 彼女が行きそうな場所を捜すが、彼女の姿はどこにもなかった。そして、日が暮れようという
時になって、深泥ヶ池へと彼が辿り着いた時、そこにも彼女の姿はなかった。
 唯一つ、紙が木に結び付けてあった。
 彼は、その紙をゆっくりと開ける。
「この紙をお前が見ているということは、私はもうこの世にはいないと言うこと。お前のことを幼
い時から、私は誰よりも好きだったけど、どうやらお前と添い遂げることは出来ないみたい
ね・・・。身分の差など関係ない時代に生まれていたなら、お前と私は結婚していたのかし
ら・・・。父上にとっての私の幸せと、お前にとっての私の幸せと、私にとっての幸せ。それら
は、本当に私の幸せを願っているものだけど、少し違ってしまったみたい。それぞれが、争うこ
とを覚悟してでも、互いの思いをぶつけ合うべきだったのかもしれないわね。でも、私にとって
は、お前も父上も本当に大事だったから、そんな二人と争うことは出来なかった。私の弱さがこ
の結果を生んでしまったのね。お前に、最後のお願いがあるの。勝手だけれど、これからも私
の代わりに父上を支えてあげて。そして、今度生まれ変わった時は、きっと私を・・・、見つけ出
して・・・」
 彼は、彼女の文を握り締めながら、ただずっと深泥ヶ池を見つめていた。
 自分にほんの少しの勇気がなかったばかりに、彼は彼女の幸せが何なのかわからなかっ
た・・・。
 彼の頬を静かに涙が伝う。
 後悔しても後悔しきれない。彼女はもう二度と戻ってこない・・・。
「今度生まれ変わったなら、きっと・・・」
 見つけ出して見せる。そして、決してその手を離さない・・・。
 彼は、茜色に染まる空に誓った。

                             終わり

<和歌訳>
 恋がこんなに辛いものだと知っていたら、初めからあなたのこと、ただ黙って遠くから見てい
たのに・・・。

 終わりです。前編に比べてあっさりしているのは、永泉さんの話してくれた話を元に書いているものなんで。永泉さ
んの話の世界観を上手く私が表現できなかっただけなんですが・・・。とりあえず、永泉さんが出てこないのは、これ
で終了です。明日からは、永泉×あかね話を開始します。ちょっとシリアス? でも、ハッピーエンドになる予定・・・。