巡り逢えたら <第三部 君をさがしてた(二)>

 永泉は、この地に何か大事なものを忘れているような気がしてならなかった。そう・・・遠い日
に、誰かとした約束。
 しかし、誰としたのかはおろか、約束の内容さえ思い出せなかった。
「何か、大事なことがあるはずなのですが・・・」
 彼は、深泥ヶ池をじっと見つめる。しかし、池は何も答えてはくれなかった・・・。
 
 そして、永泉が十五歳の時のある日の夜、彼は不思議な夢を見た。自分と同じ年くらいの少
女が現れ、夢の中の彼をそっと抱き締める。永泉は、その甘い香りにうっとりと酔いしれる。
 初めて会うはずの少女なのに、自然と互いの魂が溶け合うような・・・、そんな不思議な感じだ
った。
「もうすぐね・・・」
 少女の口が、そう動く。
 永泉は、少女のその言葉が一体何を意味しているのかわからず、少女の顔をじっと見る。

「もうすぐ会える・・・。やっと会える。約束よ・・・」
「あのっ、一体それは・・・」
 永泉のその言葉に少女は少し悲しそうな顔をする。
 しかし、永泉を優しく抱き締めていた腕をはずすと、彼の耳元でこう囁いた。
「きっと・・・見つけてね・・・。きっと気付いてね・・・。たった一人の私に・・・」 少女はそれだけ残
し、微笑みながら消えていってしまった。
「待って・・・」
 永泉は、闇に手を伸ばすが、少女の腕を掴むことは出来なかった。


 その日の朝目覚めた永泉は、自分でも知らない間に涙を流していたようだった。
 何とも不思議な夢だった。自分を抱き締めていた少女の腕の感触が、まだ自分の体に残っ
ているようだった。彼女の温もりを辿るように、永泉は自分の体に触れた。
「あれは、何だったのでしょう・・・」
 永泉は、不思議な経験に首を傾げる。
「約束・・・。彼女は、確かにそう言っていた・・・。私と彼女の約束? 会った事もないはずなの
に、一体どんな約束をしたというのでしょう・・・? しかし、彼女と会ったことはないはずなのに、
確かに私はあの時、旧知の人に会ったような懐かしさと愛しさ、そして、胸の痛みを感じ
た・・・。これは一体、何を意味するのでしょう・・・」
 永泉は、酷く痛んだ胸に手を当てる。
「約束・・・。私は、彼女と一体どんな約束をしたのでしょう・・・。思い出さなくては・・・。思い出す
ことが、きっと私が欲しているものを知る術なのだから・・・」

 永泉は、その日から、彼女のことを思い足そうと努めたが、そうしようとすればするほど、不
思議と思い出すことが出来なかった。
 そうしていくうちに、京を襲った鬼の仕業での忙しさに、彼はそのことを忘れてしまっていた。


  続く