巡り逢えたら <第三部 君をさがしてた(三)>

「龍神の神子をですか?」
 帝である兄の言葉に永泉は不安な顔をする。
「ああ・・・。お前も、龍神の神子については知っているだろう?」
 兄は、永泉に言った。
「ええ・・・。龍神によって選ばれた異世界から来た少女のことですね。昔、この京の窮地を救っ
たと言われる・・・」
「そうだ・・・。この京も、龍神の神子の力を借りねばならぬ時が来た・・・」
「兄上・・・」
「お前もわかっているだろう・・・。このままでは、京の人間は苦しみ続け、やがてはこの京も滅
びてしまう・・・」
 兄は表情を曇らせる。
「すみません。兄上のお力添えが出来なくて・・・」
 永泉は申し訳無さそうに言う。
「いや・・・。永泉、お前に八葉の一人として神子を守り、この京を救う手助けをて欲しいのだ」
「私が? そんな・・・。私では、力不足です・・・」
 永泉はそう言って、辞退しようとする。
「そんなことはない・・・。八葉は、神子同様、龍神が選ぶのだ。龍神がお前を選んだのだ。お
前は、自分で思っている以上に強い人間なのだから・・・」
 兄は、そう言うと永泉の肩を叩く。
「私には・・・そうは思えません・・・」
 永泉は、表情を曇らせる。
「お前は、少し自分に自信を持つべきだな・・・」
 そう言って、兄は、困ったように永泉を見る。
「とにかく、龍神の神子が選出されたならば、彼女を守り、助けてやってくれ・・・」
「わかりました・・・」
 兄のその言葉に永泉は、静かに頷いた。

 私のような者より、兄上こそ八葉に相応しいのに・・・。なぜ龍神は私を選んだのだろう・・・。
 人と争うことを好まず、逃げてばかりの私を・・・。永泉は、悩まずにはいられなかった。

 そして、龍神が選び出したのは、異世界の自分と同じ年くらいの少女だった。
 永泉は、彼女を見たとき、忘れていた何かを思い出しそうになったが、永泉の心の中にあっ
た何か大事なものとともに消失してしまった。
 鬼が八葉の心の中の、何か大事な物を奪い隠してしまったとのことだった・・・。
 彼女がこの京に召喚された夜、少しでも彼女の心の慰みになればと永泉は笛を奏でた。 初
めて真正面から見る彼女は、とても小さく、かよわい存在に見えた。こんな少女に京を救うとい
う重大な任務を負わせてしまっても良いのだろうか?
 永泉は、少女の数奇な運命に同情した。
                            
                           続く