巡り逢えたら <第三部 君をさがしてた(七)>

 永泉たちは、鬼との戦いに勝ち、玄武を取り戻すことが出来た。
 しかし、永泉はその勝利を心から喜ぶことは出来なかった。戦うことを嫌いながら、永泉は鬼
と戦った。
 鬼の少年を、セフルを救いたいと思いながら、結局、永泉は彼を救うことは出来なかった。結
局彼は何一つ変えることは出来なかった。
 そして、自分の迷いと対峙すべく、こうして潔斎に入ったのだったが、彼は答えを見つけ出す
ことが出来なかった。
「永泉さんの迷いってなんですか?」
 突然永泉を尋ねてきたあかねは、真っ直ぐな目で永泉を見つめ、尋ねる。
 永泉は、今までずっと自分が悩んでいたこと全てをあかねに話した。彼女の前だと、永泉は
なぜか自分の思いを包み隠さず話せてしまう。不思議な感覚だった。
 昔から自分を知っている人間ではないからだろうか? 
 しかし、永泉はあかねを何だかとても近くに感じてしまっているのも事実であった。
「こんな迷いに満ちた私が、法衣をまとっているのはおかしな話かもしれません」
 永泉は、悲しそうに言った。
 しかし、あかねの答えは永泉の予想外のものだった。
「おかしくなんかないよ。私は、永泉さんは迷いに向き合う勇気を持っているから僧侶になれた
んだと思います」
 勇気・・・。永泉は自分には無いと思っていたものだった。
 自分が一番欲していたもの・・・。そして自分には無いと思っていたもの。それをあかねは永
泉にあると言ってくれた。
 永泉は、心の中の迷いがスーッと消えていくような気がした。迷ってばかりの自分を、迷いと
対峙する事が出来る人間と言ってくれたあかねに、永泉は自分さえも認めていなかった本来
の自分を認めてもらったような気がした。

 それから、永泉は迷いながらも戦い続けた。どんなに迷おうと、間違った道を進もうと、自分
には、仲間がいる。神子がいる。間違えたってやり直せばいいのだと、彼は仲間達から学ん
だ。
 イクティダールと自分の姉の恋を許せなかったイノリ。
 しかし、あかねと出逢った事で、イノリは彼らの恋を許すことが出来た。あかねは、本人さえも
知らないところでみんなを救い、彼らの誤った道をいつの間にか正している。
 あの日、羅生門でイノリとあかねを見たとき、永泉の中に言い様も無い感情が渦巻いた。悲
しいような切ないような・・・。そして、言い様の無い怒り。それは、嫉妬だった。

                       続く