以前ならば、自分のそんな思いに蓋をし、目を背けてきた永泉だったが、今は違う。
真正面から自分の思いと向き合い、受け止めることが出来るようになっていた。以前は、醜
いと思っていたその感情さえ、今は、不思議と自分の一部として受け入れられる。
あかねのおかげだった。
あかねの努力もむなしく、永泉の心のかけらは一つしか戻らなかった。
しかし、永泉の心の中の失ってしまった何かを補充するように、永泉の心は今、あかねという
存在で満たされていた。
あかねが帰ってしまう日が近づけば近づくほど、永泉はその満ち足りていながら、どこか満ち
足りていない心を痛めていた。
そしてあの日、永泉は自分の心に整理をつけるべく、音羽の滝へと向かった。
やはり、滝に流れは戻っていなかった。
もし、滝に流れが戻っていたなら、この思いを神子に伝えようと、永泉は思っていた・・・。
自分のこの思いは罪なのか、それともそうじゃないのか…。永泉は、この音羽の滝にその疑
問を投げかけようと思っていた。
しかし、滝は拒絶するかのように、あの美しい流れを見せてはくれなかった。
「やはり、私の思いは、罪なのでしょうか・・・」
永泉が、そう小さく呟き、袂から笛を取り出し奏で始めた。
そのとき、彼の愛しい者の姿が目に入る。
「神子・・・。どうしてここに・・・」
「永泉さんがここにいるような気がして・・・」
彼の質問にあかねは答えた。
言ってしまえば、神子の重荷になってしまう。そう思いながら永泉は、言うまいと思っていた己
の気持ちを何かに後押しされるように、話してしまう。
仏に仕える身でありながら、こんな感情を抱く罪深い自分・・・。
しかし、あかねは、そんな永泉に対して、罪など犯していないと言った。
その瞬間、戻るはずなど無いと思っていた滝に流れが戻った・・・。
永泉は、自分の思いを止めることが出来なかった。その思いをあかねは静かに受け止め
る。
その瞬間、永泉は何かが満たされていく感じがした。
そうか・・・。生まれた時から、探し求めていたモノは、きっとこの人だったのだ・・・。
ずっと一緒にいたい・・・。永泉が初めて心のそこから欲したものだった・・・。
続く
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