巡り逢えたら <第三部 君をさがしてた(九)>

 全てが終わり、京には平安が戻った。何も変わらないような世界。平和な京を、異世界から
来た少女が取り戻したことは、誰も知らない・・・。

 永泉は感慨深げに、今は葉桜となった桜の木を見上げる。
「永泉さん」
 静かに微笑み、振り替える永泉の目には愛しい彼女が映る。
「神子・・・」
 その言葉にあかねは苦笑する。
「もう、私は龍神の神子じゃないですよ・・・」
 あかねは、そう言って笑った。
「そうでしたね、すみません、なかなか癖が抜けなくて・・・」
「もうそろそろ、きちんと名前で呼んでくれないと・・・」
 そう言いながら、あかねは嬉しそうに微笑む。
「そうですね・・・」
 永泉は、恥ずかしそうに微笑んだ。
「あのね・・・。変だって笑わないで下さいね。私、永泉さんとは、初めて会ったときから、こういう
風になるような気がしてたんです。永泉さんを見たとき、初めて会ったような気がしなかったっ
て言うか・・・。昔、夢の中で永泉さんに会ってるんです、私・・・」
「夢の中で・・・?」 
 永泉は、不思議な気持ちで聞き返す。自分も、彼女の夢を見たと言ったら彼女はどんな顔を
するだろう・・・。
「正確に言うと永泉さんじゃないのかもしれないんだけど・・・。永泉さんは、東宮で、私は、鬼の
娘なの。二人はね、お互い好きになるんだけど、結局結ばれなくて、来世で会おうって約束す
るんだけど・・・」
「それで・・・?」
 永泉は、どこか聞いた覚えのあるような話に、心を突き動かされるように先を促す。
「二人は、生まれ変わって、お姫様とその家で働く下男になるんだけど・・・」
「結局、二人は結ばれなかった・・・」
 永泉は、悲しそうに呟く。
「うん・・・。それでね、その後、私が永泉さんにね、もうすぐ会いに行く・・・って言ってて・・・。だ
から、永泉さんを初めて見たとき、何だか不思議な感じがして・・・。あの時は、色々考えなくち
ゃいけないことが多くて、聞けなかったんだけど・・・」
 恥ずかしそうに呟くあかねに、永泉は微笑む。
「あなたに出会って、私はいろんなことを思い出したのですよ。遠い過去の約束も・・・」
「約束・・・?」
「ええ。私は、きちんとあなたとの約束を守りましたよ・・・。あなたを必ず見つけ出し、もう二度と
手放さないと・・・」
「永泉さん・・・?」
「私たちは、話さなければならないことがたくさんありますね・・・。今まで会えなかった分、私は
あなたに話さなければならないのです」
「・・・?」
 あかねは、不思議そうに永泉を見つめる。
「だから、あなたも私との約束を守ってくださいね。私と、一生添い遂げると・・・」
 永泉は、あかねの柔らかい髪を撫で、そっと口付ける。
「永泉さん・・・」
「まず、手始めに、私が羅生門でイノリ殿に嫉妬したところから話しましょうか・・・」 あかねの
耳元で、永泉がそっと囁く。
「羅生門で・・・?」
 あかねは一瞬、わからないと言った顔をしたが、すぐに思い出したように動揺する。
「アッアレは・・・。・・・永泉さん、嫉妬したんですか?」
 あかねは、動揺しながらも嬉しそうに永泉に尋ねた。
「ええ・・・。醜いぐらいに・・・」
 そう言って永泉は苦笑する。
「やはり、神子には、話さなければならないことがたくさんありますね」 
「でも、今はそれよりも・・・」
 そう言うとあかねは、永泉に口付けをせがむ。 
 永泉は、少し恥ずかしそうにそっとあかねに口付けた。
 どこまでも澄み渡る青空の下、重なり合った二人の影が伸びていた。

  終わり

<和歌訳>
 私たちが神々の時代から出会っていたんですね。だから今、私がはあなたのことをこんなに
も胸に焼き付いて忘れられないのです。

 これにて連載終了です。今までお付き合いいただけまして、ありがとうございました。
 サブタイトルは、自分の好きな曲&イメージから取ってみました。曲からイメージして書くの好きなんで・・・。
 一部から二部、二部から三部へと移行するにあたって、それぞれの願いが叶っていっているんですが、お気づきに
なられましたでしょうか?
 本当に大事なのは、そういうものじゃないんだよというのをテーマに書いてみました。
 なんで、あかねは、現代に生まれていますが、永泉は張り切って身分の差が激しい時代で、帝の弟に生まれちゃ
ったみたいな・・・。
 心のかけらを全て手に入れたときに、新たな心のかけらを八葉は神子からもらってるんじゃないかなーというのが、
私の考えなんですが・・・。そんな訳で、永泉は、あかねから欲しいものを欲しいという勇気をもらったことにしてみまし
た。楽しんでいただけたら、幸いです。
 祭は、一応、8/6まで、延長です。読みきり出来るかな? ってぐらいですが・・・。