君のいる夏

 ガタッと言う物音にあかねは不安げに外を見る。
「誰?」
 恐る恐る尋ねるあかねの声は、少し震えていた。
「・・・・・・」
 音を出した主は何も答えない。気のせいだったのか・・・。あかねがそう思い、寝所に戻ろうと
した時、グッとその腕を掴まれた。
「キャ・・・ッ」
 叫びかけたあかねの唇を何かが塞いでしまう。一瞬、その腕から逃れようとあかねは力を込
めたが、よく知っている侍従の香り、そして、何度も交わした口付けの心地よさに彼の人とわか
って、静かに体を預ける。
「すまない、あかね・・・。怖がらせてしまったね」
 友雅はそう言ってあかねの髪に触れる。
「本当にビックリしたんですよ・・・、もう・・・」
 そう言いながら、こんな夜遅くに訪ねて来た友雅の気持ちが嬉しいあかねは、言葉とは裏腹
に友雅に抱きつく。
「おや・・・。今日は、随分甘えてるんだね」
 そう言っている友雅も嬉しそうにあかねを抱き締める。
「今日は、どうしたんですか?」
 仕事で疲れているだろうに、こんな夜遅くに隠れるようにあかねを訪ねて来た友雅に尋ねる。
「君に、見せたいものがあってね・・・。今、いいかい?」
 友雅のその言葉にあかねは静かに頷く。
 友雅は、あかねをひょいと抱き上げると、持ってきていた草履を履かせる。
「こんなに夜遅くに君を連れ出したことがわかったら、藤姫に怒られてしまうからね・・・」
 そう言って、友雅は笑うとあかねの手を取る。
「では、行こうか・・・」
 あかねは、友雅に引かれるままに後をついて行った。

「ここは・・・?」
 あかねは、真っ暗な辺りを見回す。
「ここは、私の好きな場所のひとつでね。あまり人には知られたくないから、秘密にしているん
だ・・・。誰かをここに連れて来たのは、君が初めてだよ・・・」
 友雅は、内緒話でもするかのようにあかねの耳にそっと囁く。
 友雅の低い声が、あかねは何だかくすぐったくて、恥ずかしい・・・。
「でも、どうして夜なんですか?」
「それはね・・・」
 友雅がそう言いかけた時、辺りがぼんやりと明るい光を放った。
「・・・」
「蛍だよ・・・」
 友雅のその声を合図にするかのように、あちらこちらで、蛍が光りを放つ。
「綺麗・・・」
「・・・」
 あかねは、蛍が放つ柔らかい光を嬉しそうに見つめる。
「君に、これを見せたかったんだ・・・」
 友雅は、幸せそうなあかねの横顔を見つめながら言った。
「ありがとうございます・・・」
「それに、夜だったら、こんなことをしても誰も見ていないだろう?」
 友雅はそう言うと、あかねに深く口付ける。
「そろそろ、私の家へおいで」
「友雅さん・・・」
「一人寝は、寂しい・・・。君と出逢うまで、そう思ったことは無かった。だから、責任を取ってくれ
るね?」
 その言葉にあかねは頬を赤く染めると、静かに頷いた。
 二人の周りを祝福するかのように蛍が照らしていた・・・。

                                  終わり
 
             

 いつき様からのリクエスト、友×あか京バージョンで夏をテーマにってことだったんですが、夏ってあんまり関係ない
仕上がりになってしまったような・・・(愚)。何て言うか、少将殿は常に強引ってことで・・・。夏と言ったら、蛍しか思い
つかなかった私を許してください(苦笑)。