無いものねだり<一>

 
 泰明が何者かに攫われた・・・。
 それは、残る四神は後一つとなった時のことであった。そして、運悪く、最後に取り戻さなけ
ればならなかった四神は、玄武であり、それには泰明の力が必要だった。
「昨日、神子様と永泉殿と玄武を縛る呪詛は取り除くことは出来たのですが・・・」
「それだけが、不幸中の幸いだな・・・。それにしてもあいつが攫われるなんて、一体どうなって
るんだ!! やっぱり、鬼の仕業なのか?」
 天真がイライラしたように言った。
「すみません・・・」
 責任を感じた藤姫の表情は暗い。
「すまねぇ。藤姫を責めるつもりだったわけじゃ・・・」
 天真は周りへの配慮が出来ない自分にイライラしたように頭を掻き毟る。
「大丈夫です。天真殿が心配なさっているのは、十分わかっております」
 永泉が、その場を収めようと、微笑みながら言った。
「ところで、藤姫。神子は、どうなさっているのですか? 神子にも一応、この事は伝えておいた
ほうが・・・」
「そうですわね。もしかしたら、神子様なら何かわかるかもしれませんわね」
 藤姫はそう言うと、あかねを呼びにその場を離れた。
「何だって、泰明が・・・」
「泰明殿がいなければ、玄武を解放することは出来ませんから・・・。そのことを狙って鬼も泰明
殿を攫ったのでしょう・・・。玄武を解放する日の朝までに、泰明殿を見つけ出すことが出来れ
ばいいのですが・・・」
 永泉は、不安げな面持ちで呟いた。
「お前、同じ四神なんだから、わかんねぇのかよっ!!」
 イライラした天真が永泉を怒鳴りつける。永泉は、天真のその声にビクッと体を畏縮する。
「申し訳ありません・・・。私には、泰明殿の気配を感じることが出来ないのです。何か大きな力
によって気配を隠されているのかもしれません・・・」
 二人の間に沈黙が続く。
「このことって、他の奴らにも伝えたほうがいいのか?」
 沈黙を破ったのは天真だった。
「いえ・・・。いたずらに皆さんの心を乱すわけにも行きません・・・」
「ったく、どうすりゃいいんだよっ!!」
 天真の怒声が屋敷に響き渡る。
「たっ、大変ですっ。どうしましょう・・・」
 二人の元に真っ青な顔をした藤姫が現れた。
「神子様がっ!! 神子様が・・・っ!!」
「どうしたのですか?」
 永泉が、平静を保ちながら尋ねる。
「神子様がいないんですっ!! 神子様の姿がどこにも・・・っ!!」
 新たな波乱の始まりだった・・・。


               続く

                        

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