無いものねだり<二>〜チェン子side〜

その頃、渦中の2人は、双ヶ丘の洞窟にいた。
「ふうっ」
 あかねは、やれやれといった感じで肩を鳴らしながらため息をつく。
「泰明さん、結構重いね。もうちょっと軽いかなって思ってたんだけど・・・」
「すまない・・・。人ならぬ身ゆえ、人外的な重さなのかも知れぬ・・・」
 泰明は、辛そうにそう小さく呟く。
「いや、いいんだけど・・・。普通の成人男子に比べれば、軽いと思うし・・・。何て言うか、もっと
羽根のように軽いみたいなのを想像してたのね。こう、フワッみたいな・・・。張り切ってお姫様
抱っこするつもりだったのに、結局、肩に担ぐようになっちゃって、ロマンも何も無かったじゃな
い」
 あかねは、心底ガッカリしたように言った。
「お姫様抱っこ・・・? それは一体どのような抱き方なのだ・・・。私にも、出来るだろうか・・・?」
 縋るように自分を見つめる泰明に、あかねは困ったように言った。
「うーん。どうかなー。結構、筋力必要だからねぇ。永泉さんぐらいならいけると思うけど、頼久
さんと友雅さん辺りは、無理じゃないかな?」
「そんなに技能を必要とするものなのか?」
「そうだねぇ。支点が首と片腕のみだからねぇ。相手に暴れられると厄介だし・・・」
「だから、神子はさっき私に暴れるなと言ったのか?」
 泰明は合点が言ったというようにあかねを見る。
「まあ、そういうことだよね」
「ところで、神子。今更なんだが一つ聞いても構わぬか?」
「いいけど、一つに絞れるの?」
「極力努力する」
「じゃあ、どうぞ。この龍神の神子様に何でも聞きなさい☆」
 そう言うと、あかねは泰明の前に仁王立ちになり、胸を張る。龍神の神子という役職をひどく
気に入っているようだ・・・。
「何故私は縛られてここに連れて来られているのだ?」
 泰明は、自分を縛める縄をじっと見ながら尋ねる。
「泰明さんは、私のこと・・・好き?」
 あかねは急に頗る可愛く振舞う。 
「この感情が何なのかわからないが、私は今、お前がいなくなってしまったなら、生きていけな
い・・・。そんな気がしている・・・」
「それこそが、まさしく好きっていう感情!! 人間が持つ感情の一種よ!!」
「そう・・・なのだろうか・・・」
「双ヶ丘で誓い合ったじゃない!! これからは、ずっと一緒だよって!!」
 あかねは、泣き真似をしながらそう言った。
「すまない、神子・・・。泣かせるつもりは無かった」
 泰明は、申し訳無さそうに表情を曇らせる。

                       続く