無いものねだり<二> 〜静流side〜
「神子・・・。一体どこまで行こうというのだ・・・」
 あかねを追ってきた泰明は、やっとあかねを捕らえる。
「・・・・・・・」
 あかねは、振り返りもしなければ、何も答えなかった。
「神子・・・?」
「怖い・・・。怖いの」
 やっと、口を開いたあかねの言葉は、恐怖の気持ちを表すものだった。
「とりあえず、落ち着いたほうがいい。座れ」
 泰明はそう言うと、木の根に腰を下ろす。あかねも、それに続いて、隣に腰を下ろした。
「このまま、鬼と戦って、玄武を取り戻して、京に平和が戻って・・・。でも、鬼の人たちはどうな
っちゃうの? 本当に鬼の人が悪いのか、どうか・・・、わかんなくなってきたの」
 あかねは、ポツリポツリと告白した。
「鬼は、京を穢し、京の人間を苦しめてきた存在だ。やつらを排除することが我々の使命・・・」
「泰明さん・・・」
「私は、今までそう思ってきた。神子、お前を愛しく思うまでは・・・」
「・・・」
 あかねは、泰明のその言葉に頬を赤く染める。
「今は、本当に正しいことが何なのか、わからなくなって来た。このまま、玄武を解放し、鬼を排
除することのみが、本当に正しいことなのか・・・。お前を見ていると、そんな気持ちになる」
 そう言って、泰明は辛そうに顔を歪めた。
「本当はね、一番怖いのは、みんなに忘れられることなんだ」
 不意のあかねの言葉に泰明が驚いたようにあかねを見る。
「玄武を解放して、アクラムと戦って、京を救って・・・。そうしたら、私は、元の世界に帰る。きっ
と、みんな私のこと忘れちゃうんだろうなって・・・。泰明さんも、きっと・・・」
 あかねは、悲しそうに微笑む。
「だから、逃げちゃった。みんな、心配してるかな?」
「しているに決まっている」
「私が龍神の神子だからだよね」
「そうではない。少なくとも、私は違う。私は、おまえ自身が心配でここまで追ってきた。戻るぞ、
神子」
 泰明はそう言うと、あかねの腕を掴む。
「戻りたく・・・無い」
 あかねは、泣きそうになるのを我慢しながら告げる。
「泣くな、神子。私はどうすれば良いのかわからなくなる・・・」
 泰明はそう言うと、再び、あかねの隣に座った。


続く