無いものねだり<三>〜チェン子side〜

 その泰明の表情をこっそり伺いつつ、あかねが不敵な笑みを浮かべる。
「じゃあ、あの日のあの情熱は嘘じゃ無かったって言える?」
「情熱? 私は、情熱というものが一体どんなものなのかわからぬ・・・。それも、人としてかけて
いることなのだろう・・・」
 そう言って、泰明は再び俯く。
「友雅さんに聞けばわかるよ。友雅さんには無いものらしいから」
「友雅に無いもの・・・。それが情熱・・・? 節操か・・・? それなら、私にはある」
 泰明はやっと笑顔を見せる。
「うーんとねぇ。節操とは違うんだよねぇ。なんていうか、若さゆえ・・・みたいな? 勢いって言う
か・・・?」
「友雅は、あの年だから無いのか・・・」
 泰明が納得したように頷いた。
「それはともかく、泰明さんは、私のこと好き?」
「ああ・・・」
 あかねの質問に、泰明は微笑みで答えた。
「私ね、泰明さんと私の心が通い合ったって言う証がほしいの」
 そう言って、あかねはやけに手際よく泰明の着物を脱がせていく。
「神子・・・? 一体何をする気だ?」
「愛し合う男女がすることって言ったら、決まってるじゃない」
 あかねはそう言って、不敵な笑みを浮かべる。
「神子、待ってくれ。私はお前に抱かれるわけにはいかぬ」
「いや、抱くのは、私じゃなくて、泰明さんだし・・・」
 そう言って、あかねはやけに笑顔で泰明に答える。
「そういえば、晴明様に、使いを頼まれていたのだ」
 泰明があかねから目を逸らしながら言う。
「大丈夫だから。お使いなんて誰かが代わりに行ってるから」
「しかし、みなが心配しているぞ、帰ろう」
 泰明は、あかねを宥めるように言葉を続ける。
「大丈夫、犬に咬まれたと思って忘れればいいから」
 あかねは、なおも抵抗を繰り返す泰明に、笑顔一つ崩さず続ける。
「神子・・・。なぜ、そんな辛い出来事として変換されようとしているのだ?」
 泰明がふと疑問を投げかけた。
「うーん。なんででちゅかねぇ?」
 あかねは、とりあえずその場を誤魔化そうと、赤ちゃん言葉を使った。
「神子・・・。こういうことを言うのは、自分でもどうかと思うが・・・。その言葉、何だか馬鹿にされ
ているような気がしてならないから、やめてくれまいか?」
 泰明は少し不愉快そうにあかねを見た。
 
                 続く