無いものねだり<四>〜チェン子side〜
「ひどいっ!! 泰明さんは、全然、私の愛をわかってないっ!! 私が、泰明さんのこと、どんなに愛
しているか・・・」
 そう言って、あかねは、手首を縛っていた縄をもっときつくする。
「神子? これは愛なのか・・・?」
 泰明は、愛というものを知らないがために、至極当然な疑問を投げかけた。
「泰明さん。人間の愛って言うのは、いろんな形があるんだよ? ただ、その人を見つめる愛。
その人のために何かしたいと思う愛。そして、その人を拘束したいと思う愛。私は、人が本当に
誰かを好きになったら、その人の全てを手に入れたいと願うのが、本当だと思うのね」
 あかねは泰明に言い聞かせるように言いながら、もっと複雑に縛っていく。
「コレが・・・愛の形?」
 泰明は、縛られた手をしみじみと見る。
「心までは縛れないから、こうしてあなたの体を拘束するの・・・。わかった?」
 あかねは、微笑み、再び泰明の着物を脱がせにかかる。
「神子・・・。そんなにまで、私のことを・・・」
 泰明は、単純ゆえにあかねの言葉をそのまま信用して感動に涙を流した。

「お館様・・・。どうやら、龍神の神子が行方不明になったようです」
 イクティダールのその言葉にアクラムは笑みを浮かべる。
「ふ・・・っ。怖気づいたか、龍神の神子が・・・。龍神の神子がいない今、京は、もう我が手中に
あるのと同じこと・・・」
 アクラムは、そう呟くと満足気に高笑いした。
「お館様。その、どうやら地の玄武までもが行方不明になっているようなのです」
「陰陽師が・・・? ますます好都合ではないか・・・。龍神の神子も無く、八葉までも逃げ出したと
あっては、もう、この京は救いようも無いな・・・。戦わずして、勝利を手に入れた。龍神の神子
と地の玄武には感謝せねばならぬな・・・」
 そう呟き、アクラムが喜んだのもつかの間、アクラムの耳に聞き覚えのある、しかし、何やら
緊迫した声が入ってきた。
「ねっ、本当、ちょっとだけだから。痛いことしないから。一瞬で天国に行っちゃうよ?」
「いや、神子・・・。こんな場所で・・・」
「ちょっちゅですけんねー。淡い青春の一ページだよ☆人生、長いこと生きてると、辛いことも、
悲しいこともたくさんある・・・。でも、このことは、そんな時私の心をノックしては、私に生きる力
をくれる・・・。そんな気がするの・・・。」

「龍神の神子の声・・・? いったいどこに・・・?」
そう呟きながら辺りを見回すアクラムの目に飛び込んできたものは、あまりにも無残な光景だ
った・・・。


                                                  続く