無いものねだり<四>〜静流side〜
「誰も居ぬようだな・・・。人の気配は残っているのだが・・・」
 泰明は、そう呟きながら、庵の中に足を踏み入れる。
「手入れはしてあるようだから、今は居ないだけか・・・」
 庵の中には、大量の器があった。
 どんどん先へ先へと足を踏み入れて行く泰明の後ろから、あかねも恐る恐る、辺りを見回し
ながら入っていく。
「泰明さん、人がいないのに勝手に入ってしまったら、悪いんじゃ・・・」
「問題ない」
 あかねの疑問に、泰明がたった一言返す。
「でも・・・」
 あかねかそう言いかけた時、突然背後から声がかかった。
「お前たち、何をしておる・・・っ」
 その声に振り返った二人の目に入ったのは、一人の年老いた男だった。
「あの・・・」
 あかねが何か言いかけるのを泰明が止める。
「しばらく、ここに厄介になりたい。構わないだろうか?」
 泰明のその言葉に老人はいぶかしげな顔で二人を代わる代わる見る。
「いいだろう・・・。お前達の答えが見つかるまで、ここにいるがいい」
 老人は、全てを知っているかのように納得顔で頷いた。

 その日から、老人と泰明とあかねの生活が始まった。老人は、この庵で器を焼いているらし
く、庵の中の数多くの器は、全て老人が手掛けた物だということだった。
「凄いですね。こんなにたくさんの器・・・」
 そう言って、あかねは器を手に取り、じっくりと眺める。
「しかし、それではダメなのだ・・・」
 そう言って、老人は首を振る。
「どうしてですか? こんなに素敵な器なのに・・・」
あかねには、どうしてその器がダメなのかわからなかった。
「これは、わしが求めている器ではないのだ・・・。他人から、どう評価されようと、自分の納得
の行かないものを完成品としては、認められぬ・・・」
 そう言って、老人はあかねからその器を取ると、割ってしまう。
「もったいない・・・。おじいさんは、どうしてそんなにまでして、完璧な器を作ろうとしているんで
すか?」
 あかねの、至極当たり前の疑問に、老人は口を開いた。

                            続く