神様のいたずら<後編>

「つまり、先ほど二人がぶつかってしまった時に、心が入れ替わってしまったということなんです
ね?」
「そうだ・・・」
「では、神子様はどちらなんですか?」
「神子の体は私が占有してしまっているから、私の姿をした神子が、神子だ」
「占有しているって言葉、何かドキドキしちゃいますね」
 泰明の姿をしたあかねは、嬉しそうに笑った。
「では、私は、どちらを神子様とお呼びすれば良いのですか?」
 あかねの言葉は藤姫のごく自然な疑問によって流された。
「そうだな・・・。神子の精神は私の身体に宿っているが、傍から見れば、神子は私ということに
なるから・・・。私を神子と呼ぶのが妥当だろう・・・。それから、他の者には、このことは伝えな
いように・・・。みな、混乱する。」
「わかりましたわ。では早速なんですか、神子様。永泉殿が、昨日の晩から屋敷に戻られてい
ないとの連絡が入りまして・・・」
「永泉が?!」
「永泉さんが?」
 二人の言葉に藤姫は頷く。
「はい、お二人は永泉様の行き先に心当たりはございませんか・・・?」
「うーん。永泉さんねぇ・・・」
 泰明の姿をしたあかねが首を傾げる脇で、あかねの姿をした泰明も頭をひねる。
「あいつは、確か、野宮と吉祥院と音羽の滝が好きだったが・・・」
「結構、深泥ヶ池も好きみたいですよ?」
「そうなのか・・・。私には、そんなことは言っていなかったが・・・」
 あかねの姿をした泰明が、悲しそうな顔をする。
「とりあえず、探しに行くか・・・」
「そうですね・・・」
「私が、音羽の滝へ行く。神子は、他を当たってみてくれ」
 あかねの姿をした泰明はそう言うと、音羽の滝へと走って向かった。
「じゃあ、私は・・・の野宮に言って見ます」
 泰明の姿をしたあかねはそう言うと、野宮へと走っていった。
 泰明が音羽の滝に着くと、永泉の笛の音が響いていた。
「やはり、ここに来ていたか・・・。しかし、永泉は一体どこにいるのだ・・・?」
 泰明がそんなことを呟きながら、永泉の姿を探していると、永泉の姿が目に入った。
「・・・。神子・・・? 神子ではありませんか・・・。どうしてここに・・・」
 あかねの姿をした泰明であるということを知らない永泉は、驚いたように、泰明を見る。
「ここにいるような気がした・・・」
「そうですか。あなたの姿を目にした時、一瞬幻かと思いました。あなたのことを考えていたの
で・・・。たよりにもあらぬ思ひのあやしきは心を人に作るなりけり」
「永泉・・・さん。」
 泰明は、複雑な心境でその名を呼ぶ。自分は、今、あくまで、神子なのだから、神子として振
舞わなければ・・・。泰明の中にそんな使命感に似た思いが宿る。
「どういう意味・・・だ?」
「い、意味ですか・・・? 秘密です。あなたも、この歌と同じ思いなら良いのですが・・・」
 やはり、そうなのか・・・。日頃から、永泉のあかねを見つめる目は、普通とは違ったから
な・・・。そうか、やはりそうなのか・・・、
 私は、永泉の恋敵ということなのか?
「私も、あなたのような清らかな心を持っていたのなら、滝を甦らせることが出来たのかもしれ
ない・・・」
 そう言って、永泉は表情を曇らせる。
「いいかげんにしろ!! みんなに心配掛けさせて・・・。他人に迷惑をかけるなど、子供ではない
のだから、言いたいことがあるなら、はっきり言え」
 泰明は、じれったい永泉に痺れを切らしたようにいった。
「・・・。そうですね・・・。たとえ、それが口に出した瞬間に消えてしまうものだとしても・・・。・・・私
はあなたが・・・。・・・? こ、これは・・・?」
「滝が・・・?」
「神子・・・。私はあなたが好きです。あなたをお守りできて、本当に幸せだと思います。・・・誰も
が私を肩書きで見る・・・。東宮候補、親王、帝の弟・・・けれど、あなただけは違った。あなたの
優しい心が・・・優しい気持ちが滝を甦らせてくれたのです・・・」
「永泉・・・」
「ひ、日が傾いてきました。そろそろ帰りましょう」 
 そう言って、言いたいことを全て言い切った永泉は、清々しい表情で隣を歩く。
 そして、それとは逆に泰明の心の中には、いろんなことか渦巻いていた。困った・・・。言おう、
言おうと思っていたのに、永泉は私を神子だと信じて疑わず、告白までされてしまった。一体ど
うしたものか・・・。
 そんな相反した面持ちの二人は、いつしか屋敷へと辿り着いていた。
「・・・明日、もし私を連れて行って下さるのでしたら・・・。私はあなたのために最善を尽くしま
す。もう・・・逃げたりしません」
 思いを告げ、何かを成し遂げた永泉の顔は、以前のものとは違って、男らしくなっていた。
 しかし、泰明は悩んでいた。明日の四神は、玄武・・・。玄武を開放するためには、自分と永
泉が都合が良い。合体技も使えるし・・・。だが、永泉を連れて行くということは、永泉の告白を
受け入れたということになるのだろうか・・・? 
 そんなことを考えながら、ウンウン唸っていると、ジーっとあかねが妬ましそうに泰明を見てい
た。
「みっ、神子?!」
「酷いんだ、泰明さん・・・。私のふりして、永泉さんに告白されて・・・。乙女の一大イベントなの
に・・・!!」
「神子、すまなかった。こんなつもりではなかったんだ・・・」
 泰明が、申し訳無さそうにあかねに言った。
「もうさ・・・。何か、誰でも良いのかって気分になってきちゃうよね。私の外側が好きなのかって
感じだよ・・・」
 落胆したようにあかねが言う。
「いや、神子・・・。それは、きっと無い」
「ちょっと、それはそれで私の外見に魅力が無いようでムカつくんですけど・・・」
 あかねは、不愉快そうに泰明を見る。
「しかし、お前は、永泉のことが好きなのか?」
 泰明の疑問にあかねは慌てて話を逸らす。
「一体、いつになったら元に戻れるんだろう? 一生、元に戻れなかったら、困るよね・・・」
「神子が、私と一緒になれば問題ない」
 泰明はそう言って、微笑む。
「うっ。うーん・・・」
 あかねは困ったように泰明を見る。
「だとしても、自分の身体を自分で組み敷くって言うのは、嫌だなー」
「確かに・・・」
 泰明は、あかねのその言葉に頷いた。
「た、試してみるか?」
「え・・・っ?」
 泰明の言葉にあかねが顔を真っ赤に染めた。

 
 そして、京には平和が戻り、龍神を呼ぶことが出来なかったあかねは、鬼との戦いか終わっ
た後も泰明とこの京で暮らしている・・・。

                終

チェン子への初めてのキリリクだったんで、調子に乗ってやり過ぎました。完璧に下ネタに走った物も書いたんです
が、友達に叱られたんで、隠して載せてみることにしました。気になる方、探してみてください。どっかに隠しましたん
で。ですが、十八歳未満の方は、ご覧にならないで下さい