無いものねだり <五> 〜チェン子side〜


「何やってるのぉ?!」
 思わず、驚愕にアクラムは乙女口調になってしまっていた。
「お館様、見てはいけませんっ!!」
 イクティダールはそう言うとアクラムの目を覆う。
「何だ? 何なんだ? イクティダール?」
 アクラムは突然目を覆われ、軽いパニックを起こす。
「龍神の神子!! 速く地の玄武を開放してやれ・・・」
 ほとんど身包みを剥がれ、あかねに跨られている泰明を気の毒そうにイクティダールは見な
がら言った。
「いいじゃんっ。別に誰にも迷惑かけてないじゃんっ!!」
 あかねはそう言って、頬を膨らませる。
「他所様の家でやることじゃあないだろう? 地の玄武だって泣いているではないか」
 そう言われてあかねが泰明を見ると、泰明は泣きながら服をかき集めようとしていた。
「わかったよ、いいよ。どうせ、私が悪いんでしょう? いっつもそうだよ、みんなしてさぁー。私一
人が悪者ですか? 泰明さんだって、男なんだから、本気で抗おうと思えば、抗えたじゃない
っ!!」
 あかねはそう言って、相変わらず泣いている泰明を見ながら言った。
「これだから女というものは、困るんだ・・・」
 イクティダールは、イノリの姉と何かあったのか、ウンザリしたように溜息を吐く。
「それって、男女差別的発言なんで、取り消して下さいー」
 あかねは、バカにしたように言う。しかし、イクティダールはあかねのそんな言葉を無視する
と、泰明の手を縛めていた縄を解いてやり、服を着せてやっている。
「イクティダール。私はいつまで、こうしていればいいんだ?」
「先ほどからずっと目隠しをさせられてるアクラムは、不安そうに尋ねる。
「すみませんが、お館様。もう少しお待ち下さい」
 イクティダールは、アクラムを振り返りそう告げた。
「地の玄武よ、このことは、他の八葉には秘密にしておくから、安心しろ」
 そう言って、泰明の肩を安心させるようにポンポンと叩く。
「イクティダール、まだか?」
 焦れたようにアクラムは、イライラしながら言った。
「お館様。もうしばらくお待ち下さい」
「あのさぁ、アクラムって性教育とか受けてないわけ? 将来どうすんの? こんなで・・・。子孫繁
栄出来ないよ?」
 あかねが、面倒くさそうに頭を掻きながら言った。
「神子。お前もきちんと着物を正せ」
 泰明と格闘していたために、乱れてしまった着物をそのままにしていたあかねは、イクティダ
ールに困ったように言われた。