手紙


「イノリ、どうしたの?」
 先ほどからずっと何かを考え込んでいるイノリに姉が心配そうに尋ねた。
「あ、ああ・・・。いや、何か、こういうの書いたこと無いからさ・・・」
 そう言ってるイノリの前には、薄紅色の紙が一枚。
「誰かに文を書くのね・・・」
 そう言って、イノリの姉は嬉しそうにその紙を見る。
「姉ちゃん。なんでそんなに嬉しそうなんだ?」
 イノリが先ほどから微笑みながら何も書かれていない紙を見ている姉に、不思議そうに尋ね
る。
「イノリも、大人になったんだなって、思って・・・」
 イノリは、その言葉に顔を赤くする。
「べっ、別にそういうんじゃねぇよ・・・!!」
「ふふっ。別に良いじゃない。そうね・・・イノリの気持ちを素直に書けばいいんじゃない?」
「でも、オレ・・・字もあんまりうまくねぇし、こういうのってどういう風に書けばいいのかわかんなく
てさ・・・」
「こういうものは、字の綺麗汚いや、書き方なんて関係ないわよ。イノリがその人へ心を込めて
書けば、どんな文だってきっと喜んでくれると、私は思うけど・・・?」
 そう言って、イノリの姉は微笑んだ。
「でも、アイツ・・・。きっとオレ以外のやつから文をもらってると思うんだ。しかも、オレのみたい
なやつじゃなくて、もっと字も綺麗で巧いヤツ・・・。あいつの周りって、そんなヤツばっかりだか
ら・・・」
 イノリは、姉のその言葉に考え込みながらそう呟いた。
「イノリは、その人が書いた文が汚い字で書かれていたら、嫌になるの? 文が下手だったら、
そんな文、欲しくないって思う?」
 イノリの姉がイノリの顔を覗き込む。
「オレ・・・、アイツがオレのために書いてくれた文なら、どんなのだって、嬉しい。アイツが、オレ
のために書いてくれた文だから・・・」
「じゃあ、彼女もそうなんじゃないかな? イノリの好きになった人は、誰かが一生懸命書いた文
を、字が汚いから、下手だからっていう理由で捨てちゃうような子なんだ?」
「ちっ、違うよっ!! アイツは、そんなヤツじゃない・・・!!」
 イノリは、大きな声で否定した。
「じゃあ、そんなことに拘らないで、イノリが今、その子に伝えたい思いをそのまま書いたら良い
んじゃないかしら? イノリは、その子に何を伝えたいの?」
「オレが伝えたいこと・・・? 
 姉のその言葉に、イノリはますます困ってしまった。伝えたいことは、たくさんある。でも、それ
を一体どう表現すれば良いのかわからなかった。イノリは、先ほどからずっと広げたままの紙
をじっと見ながら、爪を噛む。
「・・・」
「正直に、イノリの思いを書けばきっと伝わると思うわよ?」
「正直に・・・。うん!! そうだなっ!!」
 イノリは思いついたように笑った。
「で、でも、別にオレ・・・、アイツのこと好きとかそういうんじゃないからな、姉ちゃんっ!!」
 イノリは真っ赤になって否定するが、顔が赤いことが逆に肯定しているようなものだった。
「はいはい。そういうことにしておいてあげる」
 イノリの姉は、そう言って微笑んだ。

「これ・・・。初めて書いたから、あんまり巧くねぇけど・・・。字も汚ねぇし・・・」
 そう言って、照れくさそうにイノリはあかねに文を渡す。
「ありがとうっ!!」
 あかねは、その文を嬉しそうに、満面の笑みで受け取った。
「オ、オレのいない所で見ろよなっ」
 イノリは、恥ずかしさをごまかすために、わざとぶっきらぼうに言った。
「うん。あとで、こっそり見るね」
 あかねはそう言って、嬉しそうにその文をしまった。

 その夜、屋敷に戻ったあかねはこっそり文を開けた。
 その内容にあかねは、少し顔を赤らめた後、とても嬉しそうに微笑んだ・・・。

 

                  終

 友達から、恋をし始めたばかりのイノリが呼んでみたいかなーってコトを聞いていたので、文を書くイノリを書いてみ
ました。今まで書いたことが無いから、伝えたいことはたくさんあるけれど、巧く言葉がまとめられないってこと、恋愛
初心者のイノリならあるかなーと。しかも、周りがほとんどそういうのに慣れた人ばっかりだしね。