京ラブストーリー第二章<三>

「あかね、お前、そんなに・・・って、オレが誤魔化されると思ってんのか? アッ、アレは第一アノ
台詞が入ってんだぞ」
 天真は珍しく顔を真っ赤にして、あかねを見た。
「あの台詞?」
「ほっ、ほら。アレだよ、アレ・・・!! セッ、セックス・・・」」
「ああ、あれね。カーンチ、セックスしようっ!!}」
「おっ、お前、女なんだから、そういうこと言うなよっ!!」
 天真は慌ててあかねの口を押さえる。
「なあに、天真君。急に純情ぶって。ダメだからね、いまさら純情ぶっても、その身に染み付い
た汚れは取れないのよ」
「なっ、何だよ、それ」
「自分の中のもう一人の自分に聞いて御覧なさい。詳しく教えてくれるはずだから」
 あかねは、何か意味ありげに笑って、天真を見る。天真はその笑みに自分さえも知らない自
分に、あかねが接触しているような気がして、ゾクッとした。
「えーと、それでは、満場一致で、東京ラブストーリーに決まったわけですが、早速皆さんお待
ちかねのアノ発表に行きたいと思います☆」
「あっ、あかねちゃん・・・」
「神子殿はもちろん、それぞれに相応しい役を考えてくれているんだろうね」
 それぞれが一体自分にどのような役が与えられるのかと、期待と不安の入り混じった思いで
あかねを見る。
「モチロンよ☆ アタシは、龍神の神子である前に、ドラマっ子なの。アタシのドラマっ子の実
力、見せてあげる☆ それでは、名前を呼ばれた方は、大きな声で返事をし、前に出るように。
皆さん、与えられた役を精一杯真剣に演じるように」
 そう言うと、あかねは大きく深呼吸をする。
「それでは、行きます」
 あかねのその声に、なぜかみんなが緊張した面持ちになる。
「永泉さん☆」
「はっ、はい」
 永泉は、ビクッとしつつ、前に出る
「永泉さんには、主役である赤名リカが、惚れる心優しい青年、永尾完治をやってもらいます
☆」
 あかねは笑顔で永泉の手を握る。
「ちょっと難しい役だけど、満場一致でこの役は永泉さん以外に考えられないってことだから、
頑張ってね☆」
「はっ、はいっ」
「オイ、満場一致って、お前の独断と偏見だろ!?」
「なあに、天真君。まさか、自分がカンチ相応しい・・・、そんなばかげた幻想抱いてないよね?」
「ボッボク・・・。カンチやりたかったんだけど・・・」
「ハーい。みなさーん。ちゅーもーく。カンチを演じるには、何が必要かわかりますか?演技力?
いいえ。カリスマ性? そんなものじゃあ、 モチロン無いっ!! カンチを演じるには、繊細な心、繊
細な心が必要なんですっ!! ここで皆さんに質問です。頭の良い皆さんなら答えられる簡単な質
問です。八葉の中で、一番繊細な心の持ち主は誰かしら? 永泉さん以上に繊細な人がここに
いますか? さあ、いますか? つうか、いると思ってんの? どうなの? 頼久さんっ!!」
「はっ、永泉様以上に繊細な八葉はこの世におりません!!」
「ほら、頼久さんだってこう言ってるのよ。だから・・・、永泉さん☆ 自信を持ってカンチを演じて
ください☆ 永泉さん以外に永尾完治はいないんですから☆」
「神子・・・。ありがとうございます。私、精一杯頑張らせていただきます」
 永泉は、心の中に漲る熱い思いを感じていた。そう、それこそが役者魂。
「で、次ですがー。カンチの学生時代からの友人、三上君には、友雅さんっ!!」
「フフッ。神子殿、その三上という男は、もちろん、イイ男なんだろうね」
「返事がなーいっ!! この役から降ろすわよっ!!}
  あかねのただならぬ殺気に、さすがの左近衛府少将の友雅もビクッとする。
「みっ、神子殿?」
「友雅・・・。あいつマジになるとやばいんだよ。特にドラマがかかると、鬼になるんだ。素直に返
事しとけよ」
 天真がボソッと友雅に耳打ちする。
「神子殿。この役、喜んで引き受けさせていただくよ」
 友雅はそう言って、あかねに微笑みかけた。
「よく言ってくれたわ。この三上という男は、アタシ達の世界において、友雅さんの代名詞なの。
友雅さん以外に、この役を演じられるものはいないの」
 あかねがそう言って、天真と詩紋を見ると、二人はコクコクッと頷いた。
                          

                          続く