京ラブストーリー第二章<五>


「主題歌に始まり、ドラマ内の音楽。音楽はとっても大事よ☆」
「でー、天真君は、主題歌の主旋律を覚えて。詩紋君は、バックコーラスね」
「オイ、あかね。また決まってない役があんだろ? ほら、リカの昔の不倫相手とか、さとみの友
達の保母とかよー」
「そうだよ、あかねちゃん。千堂あきほの役だって決まってないんだよ?」
「ああ、あれねー」
「ん? なんだ? 今日はみんなここに来てんのか?」
「あっ、イノリ君。ちょうど良いところに来てくれた☆」
 あかねはにっこり微笑み、イノリの手を握る。
「なっ、何だよ、お前」
 イノリは何となく嫌な予感がして、後ずさる。
「詩紋君が、今日、イノリ君は来れないって言うから、ガッカリしてたんだよー」
「あ? 何だよ、それ。俺、詩紋になんか会ってねぇぞ?」
「えっ? 会ってない? 詩紋君、このあかね様を騙そうとしたわね?」
 あかねはそう言ってゆっくりと詩紋を振り返る。
「ボッ、ボク・・・」
「まあ、良いわ。最初からわかってたし。でも、やっぱり罰を与えなくちゃねー」
 罰という言葉の響きに頼久の心が震えた。しかし、この罰は、頼久に与えられるものではな
く、詩紋に与えられるものだということが悔しい。
「そうだなぁ。詩紋君、ボイパやってよ」
「ボッ、ボイパ?」
「とにかく、楽器をやりなさい、一人で。特別ルールとして、友雅さんから琵琶借りても良いわ
よ。でもね、永泉さんから借りたら・・・。頼久っ!!」
 その声に頼久の中の何かが目覚め、頼久は刀を抜いていた。
「血の物忌みになるわよ・・・」
 そう言ってあかねは微笑んだ。
「おいっ。一体なんなんだよ、今日は」
「あのね、イノリ君にお願いがあるんだ」
「おうっ、俺に出来ることだったら、何でも力になるぜ」
 イノリは、任せとけと笑顔を見せる。
「じゃあ、発表しまーす!! 千堂あきほ演じる尚子役は、イノリ君に決定です☆」
「なっ、何だよ、それ」
「イノリ君。頑張って尚子を演じきって。ううん、みも心も尚子になって!!」
「オイ、何なんだよ、これ」
 イノリは訳がわからないといった顔でみんなを見る。
 しかしなぜか、みんな温かい眼差しでイノリを見つめるばかりだった。
「今、台本書いてるから、待ってて」
「台本?」
「あー、誰でも良いから、イノリ君に説明しといて」
 あかねは面倒くさそうに言うと、紫苑色の紙を取り出した。
「あのな、イノリ。アイツは病気なんだ」
 天真は真剣な顔で言った。
「あかね・・・。病気なのか?」
 イノリが心配そうな顔で天真を見る。
「慣れない土地の生活が続いてるだろ? アイツ、ああ見えても結構繊細に出来てるからさ・・・」
 そう言った天真の視線の延長線上にいたのは、腕まくりをし、ひたすら何かを書いてるあか
ねだった。
「アイツ、ああでもしないと、精神的にかなり参ってるからさ、安定を図れないんだよ」 天真が
悲しそうな顔で、イノリに告げる。
「天真先輩、そういうこと言うと、あかねちゃんに怒られるよ」
 詩紋があかねの様子をちらちら見ながら、天真の着物を引っ張る。
「バカか。お前。こう言っておいた方が話がスムーズに進むんだよ」
「でも・・・」
「そっか・・・。アイツ、オレの姉ちゃんと一緒で、身体が弱いんだな・・・オレ、そんなこと全然知
らなくて、アイツに随分酷いこと言っちまったな・・・」
 イノリは二人のやり取りが全く耳に入ってない様子で、遠くを見る。
「あかね!! オレ、お前のために何でも協力すっからよ。何でも言ってくれよな」
 イノリは少し涙ぐみながら、あかねに言った。
「? 何だかよくわかんないけど、ありがとう。ハーイ、皆さん。次回の物忌みから、ドラマは開始
しますからね。じゃあ、今日はこれで解散。本日中に台本は配布するから、みんなよく読んで置
くように。自分の台詞だけ覚えるんじゃないわよ。話全体を把握してこそ、役者!! みんな、真の
役者になりなさい。良いわね」
「はいっ!!」
「明日の散策から練習開始です。みんな、どこに行くときも台本だけは肌身離さず持っていなさ
い。良いわね」
「はいっ!!」
 こうして、八人の燃えるような冬が幕を開けた。

                                

えーと、京ラブストーリーは、とりあえずこれで終了です。場合によっては続編書きたいんですが、当分は無理か
と・・・。ある程度片付いたら、また、ドラマ編を書きたいと思います。ここまで読んでくださってありがとうございまし
た。