神子を求めて三千里? 第一章<二>



「神子様、こちらへおいで下さい」
 藤姫はそう言って、天真に追い掛け回されたことによって警戒態勢の解かれていないあかね
に向かって話しかける。
 しかし、あかねは、フーッと唸り、藤姫の隣りにいる男をじっと見ている。
「頼久。お前、少し下がっていなさい」
「はっ」
 藤姫の言葉に頼久は静かに下がる。
「神子様」
 そう藤姫があかねに微笑みかけると、あかねはゆっくりと藤姫の元へと歩いていき、藤姫の
隣で丸くなる。
「神子様。どうして、こんなことになってしまったんでしょう・・・」
 そう言って、ため息をつく藤姫の隣であかねは心地良さそうに寝息を立て始めるのだった。


「急にみんなを呼び寄せるなんて、一体どうしたんだい? 姫君に呼び出されるというのも楽しい
ものだが、どうせなら、夜に呼んでほしいものだねぇ」」
 そう言って、友雅が微笑むと、藤姫は顔を顰める。
「友雅殿、ご冗談が過ぎますよ。こんな風に急に呼び出されるということは、京に何か重大な異
変が・・・」
 鷹通が眼鏡を直しながら藤姫を見る。
「神子に、異変が起こったか?」
 泰明が藤姫の動揺ぶりに、何かを悟ったように言った。
「神子に・・・?」
「アイツ、何かあったのか?」
 泰明の言葉に、永泉とイノリが心配そうに藤姫を見る。
「・・・泰明殿の仰るとおりです・・・。神子様に異変が起きてしまいまして・・・」
「ところで、まだみんな揃っていないようだけど、あの三人はどうしたのかな?」
 友雅が、その場にいない頼久と天真、詩紋の姿が無いのに気付き、周囲を見渡す。
 そこには、血みどろのまま横たわる詩紋と、なぜか縛られたまま転がされている天真の姿が
あった。
「藤姫、一体これはどういうことですか?」
 そう言って、天真の縄を永泉が解こうとした瞬間、天井から永泉と天真の間に立ちはだかる
ように何かが降りてきた。
 「頼久・・・!!」
 その正体に驚愕した永泉が、頼久を凝視する。
「申し訳ございません。いくら永泉様といえども、この天真の縄を外させる訳には参りませ
ん・・・」
「何故、それほどまでに・・・」
 永泉は、気の毒そうに天真を見る。
「永泉、それ以上天真に近づくな。天真は今、穢れている。物の怪に取り付かれているか否か
は定かではないが、危険な状態だ」
「危険な状態ならば、尚更解いてあげませんと・・・」
 そう言って、永泉は天真に近づこうとするが、頼久が断固として止める。