秘めた心 隠れ得ぬ思い



「なかなか止みませんね・・・」 
 あかねと二人、散策に来ていた永泉は、困ったように空を見る。
「朝からあんまり天気が良くなかったし・・・。すみません。遠出させてしまって・・・」
 あかねが申し訳無さそうに永泉を見る。
「いえ、神子は、私の心のかけらを手に入れるためにここまで来てくださったのでしょう? 私の
ためにこんな遠くまで足を運んでいただいてしまって・・・」
 永泉は、逆に申し訳無さそうにあかねに頭を下げる。
「ううん。私が来たくて来たんですから、良いんです」
 あかねは、少し顔を赤らめながら首を振る。
 二人の間に静かな時が流れる。
「静かですね・・・」
「ええ・・・」
 二人の間に響くのは雨音と互いの鼓動だけ・・・。高鳴る心臓の音が永泉に聞こえていやし無
いかと、あかねはドキドキしていた。
 しかし、永泉もあかねと同じように高鳴る自分の鼓動で頭がいっぱいだった。自分の心臓の
音が、神子に聞こえてはいないか? 自分は神子に対して普通に接しているだろうか? それだけ
が永泉の脳を支配していた。
「初めてですね、二人で雨の日に出掛けるの」
 沈黙に耐え切れなくなったあかねが再び口を開く。
「そういえば、そうでしたね」
 永泉は、そう言うと、また黙ってしまう。
「あっあの、永泉さんは、季節ではいつが好きなんですか?」
「そうですね・・・。どの季節も好きですが・・・、強いて言うならば、春が好きです。春はり、数々
の生命の息吹を感じますから・・・」
 永泉は、微笑む。
「神子は、いつが好きなんですか?」
「私も、春が好きです。ポカポカして何だか気持ちまで暖かくなるし・・・」
 そう言って、あかねは微笑む。
 永泉はそう言って微笑むあかねの顔をじっと見つめていた。
「永泉さん? あの、どうかしました?」
 あかねが少し恥ずかしそうに頬を赤らめ、永泉を見る。
「あっ、いえ・・・」
 永泉は、真っ直ぐ自分を見つめるあかねの視線に頬を赤める。
 また、沈黙が二人を包む。
 いっそ言ってしまえたら、どんなに楽になるだろうか・・・? 神子が好きなんですと・・・。誰より
も好きなんですと・・・。
 しかし、永泉にそれを言うだけの勇気は無かった。あと少し、あと少しだけ、神子を思う気持
ちをこの胸に秘めていたい。
 言ってしまえたら、楽なのに・・・。永泉さんが好きなんだって・・・。誰よりも好きなんだっ
て・・・。
 でも、その言葉を口にしたらきっと何かが壊れてしまう。だから、まだ少しだけこの優しい場所
にいたい・・・。
 二人は、そんな思いを互いに抱きながら、じっと雨が止むのを待った。

「雨が止みましたね・・・」
「そうですね。行きましょうか?」
 永泉のその言葉にあかねは思わず、永泉の着物の裾をギュッと掴む。
「神子?」
「あっ、ごめんなさいっ。行きましょうか?」
 あかねは慌てて永泉の着物の裾をパッと離す。
「もう少し、ゆっくりして行きましょうか? まだ、日が暮れるまでには時間がありますし・・・」
 永泉はそう言ってあかねに微笑みかける。
「私も、まだ神子と一緒にいたいですし・・・」
「えっ?」
 永泉の言葉に思わずあかねが聞き返す。
「いえ、何でもありませんっ」
 永泉は、耳まで真っ赤にする。
「も、もう少しゆっくりして行きましょうか?」
 あかねも、つられて赤くなる。 
「そうですね」
 二人を再び沈黙が包む。
 しかし、さっきとは違って、何だかずっと、このまま時が止まってしまえば良いのにと思うよう
な、心地よい沈黙だった・・・。

                   終

 ええと、久しぶりに永泉話です。友達にずるい永泉が見たいと言われたので頑張ろうかと思っていたのですが、駄
目でした。すまぬ、友よ・・・。私自身、沈黙には耐えられない人間なんで、いらんこと言って後から後悔なんてのは、
しょっちゅうなんですが、永泉との沈黙だったら良いかも・・・なんて思ってしまった。でも結局色々しゃべって、永泉に
ひかれそうな気がする・・・(苦笑)。