無いものねだり<六>〜チェン子side〜


「全くさー。あんなんじゃあ、アンタんとこのアクラム様、子供作れないよ?」
 「良いから、早くきちんと直せ」
 イクティダールは、目のやり場に困った様子で言う。
 先程の惨状を見てから、イクティダールの後ろに隠れ、ガタガタと震えているアクラムを見な
がらあかねはため息を付く。
「リュウジンノミコ、コワイ・・・」
 アクラムはあかね指差しながら、片言で呟く。
「ほら、人としての常識に欠けてるよ? 人じゃない泰明さん以下だよ? あんなんで、お館様名
乗っちゃって良いの? 小さい頃に人のこと指差しちゃいけませんって習わなかったの? 殺られ
ちゃうよ? 無邪気気取ったって、殺られる時は、殺られるよ? 教育し直しておきなさい?」
「そうか・・・。私はあれよりは人間らしく振る舞えているのか・・・」
 あかねの言葉に、泰明は嬉しそうに微笑む。
「うーん。まあ、そうなんだけど、本当の人間だったら、女がああいう行動に出た時は、甘んじて
受け入れないと、ちょっと不自然かな?」
「いや、あの場合はあの対処で良いんだ、地の玄武」
 イクティダールが疲れたように二人を見る。
「いや、イクティダールさんは、もう年だからあれだけど・・・。泰明さんはまだまだそういうお年
頃だから、据え膳食わぬは男の恥みたいな・・・?」
「そういうものなのか・・・?」
「違うからっ!! そういうものじゃないからっ!!」
 先程からイクティダールの後ろでずっと震えていたアクラムが、やはりイクティダールを盾にし
たまま、言った。
「うるさいよ。子供は大人の話に口出しちゃいけないのよ。ママンの胸で眠ってな!!」
「ひどいっ!! 龍神の神子、人間として何か欠けてるっ!! 絶対欠けてるっ!! 八葉の心のカケラの
前に、人間としての常識のカケラを探して来いよぉ!!」
「つうか、オカマちゃんなの? 本当は・・・。だからシリンになびかなかったわけ? なんつうか、
あの人も無駄な労力使いまくったって感じだよね。最初っから言ってやれば良いのにさ・・・。"
ボクチン、オンナノヒト、コワイノー"ってさぁ」
 あかねはアクラムを馬鹿にしたように指をしゃぶりながら言った。
「神子・・・。もうこれ以上この男を傷つけてやるな・・・」
 泰明があまりに気の毒で見ていられないと言った表情で、アクラムから目を逸らす。