杉の森で抱き締めて☆


「神子殿、杉の森に行かないか・・・?」
「杉の森・・・ですか? 良いですけど・・・」
 友雅はあかねの返事を受けると、彼女を連れて、杉の山へと向かった。
「杉の山って、どんなところなんですか? 私、聞いたことないんですけど・・・」
「君は、ここに来て日か浅いから、知らないところばかりだと思うが、そこに生っている実がとて
も美味しくて有名なんだ」
 友雅はそう言うと、昔を懐かしむように遠い目をする。
「そうなんですか。友雅さんは、食べたことがあるんですか?」
「ああ。昔、過去に一度だけ・・・、ね。この世のものとは思えぬ程の美味だが、それ故に食べ
てはならぬような禁断の実・・・。ほら、着いたよ」
 そう言われたあかねが顔を上げると、目の前には大小の実が・・・。
「杉の山って言ってたから、杉の木がいっぱいある山なのかと思ったんですけど、違うんです
ね」
 あかねはそう言って初めて見るその珍しい木に、歩いていく。あかねが、その珍しい木の実
をじっと見ると、その実は、おすぎとピーコのおすぎの顔をしていた。
「えぇっ?!」
 あかねはビックリしてその実から手を離す。
「どうしたんだい?」
 友雅が不思議そうに実を取る。
「だって、おすぎの顔してますよ?」
 「だが、桃よりも甘く、とても美味しい食べ物だから、食べてごらん」
「いえ。私は良いです」
 おすぎをすすめてくる友雅に申し訳無さそうにあかねは断った。
 「おすぎはね、私たちの世界では永遠の幸福を表す実なんだ。だが、残念なことにこの実は食
べる人を選ぶんだ。食べる前に必ずこの実に口付けしてから、食べる。それがこの実に対する
礼儀なんだ」
 友雅はそう言うと、軽くおすぎに口付けし、おすぎの実を食べ始める。すると、なぜか食べら
れているおすぎの実はうっとりとした顔をしていた。
 そんな二人の前に突然小さな子供が、ひょこっと顔を出した。
「あー。友雅さん。子供ですよ」
「私は、こう見えても子供が好きでねぇ」
 そう言って、友雅は子供を抱き上げようとしたがなぜか触れることさえ出来ない。
「あれ、おかしいですね」
 あかねはそう言って、子供に手を伸ばすと普通に触ることが出来た。
「なんで友雅さんは、触れないんでしょうね?」
 そこにいるのに触ることの出来ない不思議な子供に友雅は首を傾げる。
 するとそこに永泉と泰明が二人で突然現れ、余裕で子供を抱き上げた。
「不純ゆえに純なる物に触ることが出来ぬのだ」
「友雅殿は穢れていますから、浄化しませんと・・・」
 泰明と永泉はそう言うと、手を合わせ静かに何かを唱え始めた。
 あかねは、その二人の姿に思わず恍惚とし、手を合わせてしまう。
「駄目だな・・・。これ以上は・・・」
 二人は、長時間をかけて浄化しようとしたが、敵はかなりのものだったらしく、諦めざるを得な
かった。 

                           終
 この夢、つい先日病床に付している時に見たものなんですが、高熱に冒されている人間が見る夢って、もう何がな
んだかわからないね。40℃の熱がある時は、永泉の声を聞き、心を落ち着けつつ、永泉と泰明が見舞いに来てくれ
てるって思ったり、自分ちのインコが普通に会話できると思ったり。高熱って、恐ろしい。