初めてのクリスマス☆<前編>

「クリスマスがやーりーたーいー」
 それは、あかねのそんな一言から始まった。
「くりすます・・・ですか?」
 藤姫が不思議そうにあかねに尋ねる。
「そう!! クリスマス!!」
 あかねはやや興奮気味で言うが藤姫はクリスマスと言うものが何なのか自体わからなかっ
た。
「あの、神子様・・・。申し訳ないのですが、私、クリスマスと言うものが何なのかわからないので
すが・・・」
 申し訳無さそうに表情を曇らせる藤姫にあかねは笑顔全開で、説明し始めた。
「クリスマスって言うのはね、皆で木に飾り付けをして、美味しいもの食べて、ケーキ食べて、チ
キン食べて、恋人達は互いの愛を確かめ合って・・・。とにかく大変な日なの」 うっとりとどこか
遠くを見つめるあかねに藤姫もなぜか釣られて、うっとりとしてしまう・・・。
「それでは、神子様。お好きな方がいらっしゃるんですね」
「まあ、私も一応乙女だし・・・? こんなところに来て、恋愛の一つや二つしておかないと精神的
にももたないし?」
 あかねは、頬を赤らめながら言った。
「それで、神子様。一体、誰が好きなんですの?」
「それはいくら藤姫でも言えないなー」
「つうかよ、今、夏だぞ? クリスマスも何もないだろ?」
 先ほどから二人の乙女回路な話をずっと聞いていた天真が呆れたように言った。
「いやー。イヤラしいっ。天真君。女の子の話を立ち聞きするなんて、男の風上にも置けないわ
よ!!」
「そうだよ、天真先輩。女の子の話を立ち聞きするなんて、男の人として最低だよ。ねっ」
 そう言って、詩紋はあかねと藤姫の手を握る。
「つうか、いくら女の子ぶっても、アンタ、女の子じゃないから。可愛くないから」
 あかねは、ものすごい勢いで詩紋の手を振りきると、藤姫の手を一生懸命拭き始めた。「細
菌は、思いがけないところから入ってくるからね」
「そうだね。あちらの世界の少年は、見かけによらず手が早いようだしね・・・」
 友雅はそう言うと、あかねの手を握り、口付けようとする。
「ああ、腐敗するから、やめてください!!」
 あかねは、すんでの所で手を振り払う。
「私になびかない所も、好きだよ、神子殿・・・」
「まあ、友雅殿は神子殿が好きなんですの?」
 楽しそうに頬を赤らめる藤姫とは逆に、あかねは、テンションが恐ろしいほど下がりきってい
た。
「私、自分を好きな男には興味ないから・・・。辟易するから、そういうの。本当、自分が良い男
だと思って自信満々なヤツって、嫌いだから!!」
「神子殿は、照れ屋なんだね・・・」
 友雅のその言葉にあかねの限界が来た。
「頼久っ!! 早く、コイツを処分して頂戴」
 あかねがそう言うと、どこに隠れていたのか、頼久が突然現れ友雅をあっさりと縛り上げてし
まった。
「私はこういう趣向は無いんだがねぇ・・・」
 そう言って、渋い顔をする友雅を頼久はとりあえず庭の木に吊るした。
「放置プレイね。頼久、結構心得てるわね」
 あかねに褒められて、頼久は嬉しそうに無邪気な笑顔を見せる。
「ご褒美よ」
 あかねはそう言うと、この前偶然具現化してしまった桜の花を頼久に投げてやった。
「ありがたき幸せ」
 頼久はそう言うと、その桜を嬉しそうに握り締める。
「だからよ、とにかく今は夏だからクリスマスは無理だろう? ケーキだってチキンだって用意でき
ないだろ?」
「うるさいなー。もう、私がやりたいって言ったら、やるの。何でもアリなんだよ。とにかく、私は、
クリスマス気分を味わいたいの。もう、そのための要員も呼んであるの!!」 あかねは、イライラ
しながら天真に言った。
「あのー。神子、お呼びでしょうか?」
「神子、呼んだか?」
 永泉と泰明が連れ立って姿を見せる。二人の姿を目にした途端、あかねの表情が急に変わ
った。
「まあ、まあ、まあ。神子様は、お二人のどちらかが好きなんですわね」
 藤姫があかねにこっそりと耳打ちする。
「まあ、そういうことだよね」
「でも、なんでお二人呼んだんですか? どちらか一方のほうか良かったのでは・・・?」 
 藤姫はいたって普通の疑問を投げかけてくる。
「いや、私の理性がもたなくなった時に、止めてもらおうかと思って。クリスマスは、そんな奇跡
が起きちゃう日だからね」
 あかねは、鼻息も荒くそう言い切った。


               続く