君がため<七>


 こうして、友雅の家で過ごす様になって、一体どれくらいの月日が過ぎたのだろうか。友雅の
家で過ごす一日は、あかねにとって、とても長く感じられた。
 あの日の言葉どおり、友雅はあかねに触れるどころか、言葉を交わすことも無かった。 毎
日のように、違う女を連れてきては、毎夜のようにその女達と夜を楽しむ。友雅の家を飛び出
す以前の夜が、再び訪れただけだった。 
 しかし、あかねはもう以前のように、耳を塞ぎ、体を縮め、ただこの夜が一秒でも早く終わる
ようにと、心を痛めることは無かった。
 あの頃はそうすることでしか自分を守ることが出来ず、そして、最後には心も壊れてしまった
けれど…。今は違った。
 あかねには、思う人がいる。きっと、もう一生会えないだろうけど…。こんな自分のことをあん
なに大きな愛で包んでくれたのに、何も言わず、裏切るような形で出て行ってしまった自分のこ
とを、彼は許してくれないだろうけど…。
「思うぐらいは、良いよね…」
 あかねはそう呟いて、友雅に引き裂かれてしまった着物を抱き締める。
 不思議と、こうしてこの着物を抱き締めていると、心がとても穏やかになった。まるで、泰明の
あの優しい腕に抱かれているような気持ちになった。
 この屋敷の中で、この着物と泰明への思いだけが支えだった。
 友雅の家にやってきてから、あかねは一歩も外に出ることを許されなかった。あかねをこの
屋敷に訪ねて来る者もいなかったから、あかねは今、泰明がどうしているのかもわからなかっ
た。
 友雅に尋ねれば、今までと変わらず仕事をきちんとこなしているようだよ、と返ってくるだけだ
った。
 だから、あかねは知らなかった。永泉が、あかねを訪ねて来るまで…。

「このように訪ねて来てしまって、申し訳ありません…。友雅殿に、何度かあかね殿にお会いし
たいと申したのですが、ご病気だと断られてしまいまして…。見舞いたいと言っても、断られてし
まったものでから、忍んで来るようになってしまいました…」
 そう言うと、永泉は本当に申し訳無さそうに頭を下げる。
「良いんです。別に、具合なんて悪くないですし…」
 あかねはそう言うと、永泉に微笑んだ。
「それより永泉さんがこうして尋ねてくるなんて、どうなさったんですか?」
 あかねが不思議そうに永泉に問うと、永泉の表情が再び曇った。
「どうかしたんですか?」
「その…、あかね殿にお伝えすべきかどうか悩んだのですが…。私は、泰明殿がとても見てい
られないのです…。今の泰明殿は、そこにありながら、そこにいない…」
「どういうことですか?」
「…最近の泰明殿は、仕事も今まで以上にこなし、能力も随分買われております。ですが、私
には自分の体を酷使しているようにしか見えないのです…。以前の初めて出会った頃の泰明
殿のように、ただ道具として生きる道を進んでいるようにしか…」
「そんな…」
自分が泰明のためを思ってしたことが、このような結果を生んでしまうなんて…。自分は一体ど
けだけ泰明を傷つけてしまっているのだろうと思うと、ただただ、胸が締め付けられる思いだっ
た。
                             続く

 もうすぐ幸せに・・・という言葉を私は何度書いたんだろうという気持ちにさせられるこの展開。自分で書きながら、
彼らがどうしたいのかわからなくなってきました(苦笑)。でも、本当に、もうすぐ終わらせますから、もう少しだけ、頗る
暗いこの方々にお付き合い下さい。