君がため<八>


「あかね殿…。泰明殿に、会っては頂けないでしょうか? きっと、あかね殿が泰明殿の傍にい
れば、泰明殿はまた生きる喜びを見出すことが出来ると思うのです…。駄目でしょうか?」
 永泉は、あかねの様子を伺いながら尋ねる。
 しかし、あかねの耳に、永泉の言葉は届いていなかった。
「あかね殿?」
 不思議に思った永泉が、再びあかねの名を呼んだ。
「あっ。ごめんなさい…」
 そう言って、表情を曇らせるあかねに、永泉は意を決したように言った。
「あかね殿は…、友雅殿を好きなんですか?」
「えっ」
 永泉の突然の問いかけに、あかねは動揺を隠しきれなかった。
 「すみません…。私が尋ねるようなことではありませんでしたね…」
 永泉はそう言って、表情を曇らせる。
「ううん。ごめんなさい。そうじゃないの。ただちょっとビックリして…。永泉さんから、そういう質
問をされるとは思わなかったから…」
「すみません。失礼なことを聞いてしまいました。あかね殿が、ここにいることで、本当に幸せな
のかと思ってしまったものですから…」
 永泉の言葉にあかねは苦笑する。
「友雅殿の噂は、宮中でも耳にします。あかね殿がいながら、その…、毎日のように違う女性と
…。すみません、本当に失礼なことを…」
 永泉は、そこまで口にして謝った。
「そんな…、気にしないで下さい。永泉さんが言っていることは、本当のことだから…」 
 そう言って微笑むあかねに、永泉は胸が痛んだ。
「あかね殿は、それで幸せなんですか? 私たち、八葉は皆、あなたの幸せを祈ってきました。
今も、あなたの幸せを祈っています。天真殿や詩紋殿も…、きっとあなたの幸せを祈っていま
す…。そして、誰よりも泰明殿はあなたの幸せを祈っているはずです…。泰明殿は、ずっとあな
たのことが好きでしたから…。今も、その思いには変わりないと思います…。あかね殿、あなた
が本当に好きな方は、誰なのですか?」
 永泉の言葉にあかねは自分でも知らない内に涙を流していた。
 涙は頬を伝い、泰明があかねの為に選んでくれた着物に、小さな染みを作っていく…。
「私…。私は…。…今更、言えないよ、好きだなんて…。あんなに迷惑をかけて、優しくしてくれ
たのに、酷く傷つけてしまって…。泰明さんが好きだなんて、気がついたって、私にはそれを泰
明さんに言う資格は無いよ…」
 あかねの頬を伝う涙が、着物に無数の染みを作っていく。
「そうでしょうか? 御仏に仕える身である私が、あの日あなたに思いを伝えた時、あなたはこう
言いました。"永泉さんは、罪なんて犯していない"と。あの日、あなたは私の思いを認めて下さ
った。私は、あなたの泰明殿への思いを罪だなどと思いません。思いを伝えるのに資格など必
要ないと、私に教えてくださったのは、あの日のあなたです…」
 永泉は、そう言ってあかねに微笑んだ。

                   続く
 永泉さんの登場で、言い方向に向かうような気がして入るんですが、ウチの神子様は、すっごいネガティブなんで、
まだ苦しむかと思われますが、最後まで見捨てずにお付き合いいただけると幸いです。