茨の海<四>

「帝にお子が産まれるんです」
 そう言って永泉が嬉しそうに顔を綻ばせたのは、帝が訪ねて来た日から三ヶ月が過ぎた頃だ
った。
「えっ。本当に?! 良かったですね」
 あかねも嬉しそうに微笑んだ。
「ええ。本当に私も嬉しいです。帝は今から楽しみで仕方が無いといった感じでしたよ」
「そうでしょうね…」
「帝に、お前も早く子を持てと言われてしまいました」
 そう言って、恥ずかしそうに永泉は、頬を染める。
「えっ、あっ。そっ、そうだね」
 あかねも恥ずかしそうに相槌を打った。
「もし、子供が生まれたら、あなただったら何て名前を付けるの?」
 ふと思いついたようにあかねが尋ねた。
 いや、いつも考えていたことを改めて聞いたといったほうが正しいかもしれない。
 永泉との間に子供が生まれたら、何て名づけよう。それを、あれこれと考えることは、とても
楽しかった。
「そうですね…。あかねに似ていたら、あかねに因んだ名前を…。私に似ていたら、私に因ん
だ名前を付けるというのは、どうでしょうか?」
 永泉も、いつか来るであろうその日をぼんやりと想像しながら、そう答える。
「女の子だったら、あなたに似ているほうが良いよね。私に似ちゃったら、かなり無鉄砲な娘に
なってしまうもの。きっと、変わった姫だって、噂されちゃう」
 そう言って、あかねは笑った。
「そうでしょうか? 私は、あかねに似たら、しっかりとして優しい姫になると思うのですが…」
 そう言って、永泉は微笑む。
「そうかなあ。私は、あなたに似て、優しくて上品なほうが良いと思うけど…って、まだ生まれる
予定もないのに、おかしいよね」
「本当に」
 あかねが笑うと、永泉も頷いて笑った。
「帝のお子さん、男の子かなぁ、女の子かなぁ?」
「どちらが生まれても、きっと帝は喜びますよ」
「うん、そうだね。あなたも、子供欲しくなっちゃうんじゃない?」
「そうかもしれませんね」
 二人はお互いを見つめると、首を竦め、微笑んだ。

続く

 今のところ、居合わせな二人をお楽しみ下さい。あと一話位かな、この二人が幸せでいられるのは…。幸せな二人
には、当分会えないので…。