君がため<十三>

 いつから、この目はあかねを追うようになっていたのだろうか…?
 初めは、単なる興味に過ぎなかった。それがいつしか、自分でも忘れていたはずの感情が目
を覚まし、友雅の内を焦がした。
 こんな風に、人を好きになることは無いだろうと、友雅は思っていた。しかし、あかねを愛しい
と思う気持ちは、いきなり友雅に掴みかかってきた。
 それからは、あっという間だった。彼女を自分だけのものにしたいと言う気持ちが、友雅の内
を満たし、いつもあかねを目で追った。
 自分以外の男があかねを目で追っていることもわかっていた。
 そして、あかねが自分ではない男を目で追っていることも、友雅の目には明らかだった。それ
は、友雅の情熱が激しいからこそ、わかることだった。
 しかし、友雅にとって幸運なことだったのだろうか? あかねは、自分が泰明を目で追っている
ことに…、自分の泰明への思いに気付いてはいなかった。
 そしてまた、泰明も、自分があかねを思っているその思いの名を知らなかった。
 友雅は、神に祈った。
 あかねを、たった一人の愛しい人を、私に与えてくださいと…。
 そしてあの日、祈るように思いを告げた友雅に、あかねは戸惑いながらも、この京に残ると
言ってくれた。
 あかねが残ると言ってくれた。その事実は、友雅を幸福で満たしたが、その直後、彼女は自
分のために残ったのではないということを知ってしまった。
 虚ろな眼差しで、自分の言葉にへんじをしながら、そんな時も彼女が目で追っていたのは、
自分の姿ではなかった。

 それは、意識して行われたものではなかったのだろう。しかし、だからこそ始末が悪かった。
自分と共に生きることを承知しながら、それでも、あかねの目は泰明を探していたのだ。こんな
時でさえも…。
 それでも構わないと思った。
 あかねが一生、自分の思いに気が付かなければ良い…。
 泰明が一生、あかねの思いに気がつけなければ良い…。
 そうすれば、この虚飾の幸福も、いつしか真実の幸福に姿を変える日が来るだろう…。 そ
う、信じていた。
 しかし、あかねが自分に向かって微笑めば微笑むほど、友雅は、この幸福がますます濁りを
増していくように感じたのだった。

 
                      続く

 あと、2、3話で終わると言っておきながら、またまだ続きそうな気配が…。それもこれも、友雅氏が勝手に予定外
の動きをするから…っ!! なんつうか、ヤスアキストの皆さんには、申し訳ないです。でも、友さんの暴走を私は止めら
れないのです…。