日常と非日常のあいだに

「今日も、セレクション、ブッチギリで一位だね。なんつうか、普通科だけど、本気出すとハンパ
ねぇから!!」
 そう言いながら、香穂子は魔法のバイオリンをブンブン振り回しながら、セレクション会場に
向かっていた。
「全員、跪かせてやる!!}
 そんな物騒なことを言っていたせいか、何なのか、香穂子の身体は急に浮いた。
「えっ? いや、常々飛んでみたいとは思ってたけど…って。ええっ!? ありえないから!! 何、この
デッカイ鷲!! 生物学上、ありえないからっ!! つうか、なんでそんなバッチいもんを摘まむみた
いな掴み方な訳!?」
 香穂子は、自分をしっかりと掴むのではなく、とりあえず爪に制服引っ掛けてみましたが、落
ちたらゴメンね的な要素で自分を運んでいる鷲を振り返る。
「何つうか、どうせ飛ぶなら、もっとこう可愛らしい鳥の上に乗って飛んでみたかったかなみたい
な・・・」
 そんなことをぼやいていると、目的地に着いたのか、デッカイ鷲は香穂子を放り投げた。
 そこは、世界最高峰、エベレストだった・・・。エベレストに、冬実、月森、土浦の3人。ありえな
い組み合わせだ。
「つうか、なんでみんないるの? そして、なんでみんなの鳥は、そんなに友好的なの? こんな香
で一番鳥をかわいがってんのって、アタシだよ、多分。絶対、月森君よりは、アタシのほうが可
愛がってるから!!」
 香穂子が鼻息も荒く言うと、月森は呆れたように大きくため息をついた。
「とにかく、何とかしてここからセレクション会場まで行かないとな・・・」
「そうだな。おい、悪いがセレクション会場まで連れて行ってくれないか?」
 しかし、鷲達はそんな言葉に困ったように首を傾げる。
 その問答を一時間ほど繰り返した頃、香穂子を連れて来たデッカイ鷲が、渋々ながらも四人
に乗れと、自分の背中を見せた。
 そうして、四人は何とかセレクション会場まで行くことが出来たのだが・・・。
 冬海は、航空会社がストライキ、土浦は、地中海で船が難破、月森は飛行機がアラスカに墜
落。身元確認不明と言う理由で欠場にされていた。
「いったい、誰がこんなことを・・・」
 ふと、ステージ袖を見ると、デッカイ鷲が柚木に撫でてもらってご機嫌な顔をしているではない
か。
「恐るべし、柚木先輩。鷲までも魅了してしまうなんて・・・」
 香穂子が柚木と鷲を少し羨ましそうに見ていると、三人が香穂子を可哀想な子を見るような
目で見ていた。
「日野、俺達の分も弾いて来い}
「先輩、無敗女王まで、もう少しですよ」
「普通化の意地を見せて来い!」
 三人に励まされる香穂子。
 場内アナウンスで、香穂子がステージに立った。
 しかし、自分がバイオリンを持っていないことに気付き、香穂子はどうして良いかわからなくな
った。
「いやいやいや、バイオリンないし…。リ、リリ? リリ?」
 かなり挙動不審にリリを呼ぶと、りりが姿を現した。
「これ…」
 そう言って、リリが手渡したのは手のひらサイズのバイオリン。
「間に合わなかったの」
「いや、こんなの、弾けないから!! 本気で!!」
 すると、急に、ガ○スの仮面の月影先生のメイクを施した野際陽子が!!
「音楽は、あなたの心に刻まれているものよ」
 そう言うと、香穂子の胸を指す。
「ここで奏でなさい!!」
 しかし、香穂子は、どうにもこうにもバイオリンの弾き方を思い出せず、また小さすぎて弾きよ
うが無い。すっかり困り果ててしまった香穂子を見ていた月森が、ステージ上に現れ、香穂子
からバイオリンを取った。
「これは、こうして弾くんだ」
 月森はそう言うと、当たり前のように香穂子の口にバイオリンを突っ込んだ。
 よだれを大量にたらしながら、バイオリンを弾く香穂子。そして、会場からは彼女に惜しみな
い大喝采が…。
「日野…。君は、やはり…すごいヤツだよ…」
 ステージ袖では、柚木が悔しそうに、しかし、感動したように香穂子に拍手を送っていた。

 なんていうか、もう、自分の夢なんだから、好きな人とラブラブとか言う夢を見たって良いと思うんだけど…。私が見
る夢は。全く色気もときめきも無い、こんなアホ夢ばっかり…。ねたじゃなく、本当に見てますから、こんな夢…。たま
には、永泉とラブラブだったとか、柚木とラブラブだったとか、そんな夢、見てみたいよ…。