君がため<十一>


 いつもと様子の違う友雅に、あかねは戸惑いを隠せなかった。
「…………」
 そんな雰囲気に、友雅は、はっとしたようにあかねを抱き締めていた手を離す。
「あの……」
 あかねは、何か言おうと思ったが、一体何を言えば良いのかわからず、言葉が出てこなかっ
た。
 


「お久し振りです」
 永泉のその言葉に泰明は筆を休めず、返事をする。
「ああ。今日、何となくお前が来るような気がしていた…。しかし、何しに来た?」
 泰明の素っ気無い言葉に永泉は、困ったように表情を暗くする。
「あれのことか…」
 そう言うと泰明は、筆を置いた。
「あかね殿に会って参りました…」
「そうか…」
 泰明は、それだけ言うと再び、手を動かし始める。
「私は、このままでは誰も幸せにはなれないと思うのです」
 永泉はそう言って表情を曇らせた。
 「何故?」
 泰明は、永泉を一度も見ず、手を動かし続けながら聞いた。。
「あかね殿も、友雅殿も、泰明殿も…。皆、無理をしています…。私にはわかるのです…。痛い
ほどに…」
「無理? 誰も無理などしていない。あかねは友雅が好きで、友雅は自分にあかねが必要だと
感じたから、あかねを迎えに来た。そして、友雅のことを忘れられなかったあかねは、友雅と共
に私の屋敷を出て行った。二人は思い合っている。私は、あかねが幸せならそれで良い…。無
理などしていない…」
 泰明は、抑揚なくそう答える。
「ですが…。私にはわかるのです。あかね殿は、泰明殿のことが好きだと…。先程お会いした
時も、そうおっしゃっていました…。泰明殿も、あかね殿のことを…」
 永泉のその言葉に、初めて泰明は、顔を上げ、永泉を振り返る。
「そんな筈は無い…」
 そう呟く泰明の表情は、とても悲しく…、苦しげなものだった。

                                                                  続く
 久しぶりの泰明殿の登場です。でも、何か永泉様のほうがかなり出張ってしまっています。なぜなら、私が永泉様
好きだから…。「君がため<泰明sp>」のつもりなんですが、<永泉sp>になってしまったかも…。色々反省。妙なテンシ
ョンで書いているんで、誤字脱字が多いかもしれません…。