君がため<十二>


「私は、確かにあかねのことを愛しく思っている。しかし、あかねは、自分の意志で友雅の元に
行ったのだ。友雅を愛していたからだろう? あかねの幸せを一番に考えると言う、私の愛し方
は…間違っているのか?」
「違います!! あかね殿は、幸せではありません。泰明殿を大切に思うから、友雅殿の元に行っ
たのです…」
「そんな慰めは良い…」
「慰めではありません。真実です。泰明殿も、友雅殿の噂を少なからず耳にしているはず…。
そんな中、あかね殿が本当に幸せだと思うのですか?」
 永泉の言葉に泰明は苦笑する。
「そんな酷い目にあっても、屋敷を出ないのだから、あかねは友雅が好きだということが真実だ
ろう…」
 永泉は、ずっと言うまいと心に誓っていた。それで、全てがうまく行くのなら…。皆が幸せへと
導かれるのなら…と。
 しかし、永泉は意を決したように、固く封印されたその秘密の紐を解き始めた。
「…私は、あかね殿が好きでした。ですから、あかね殿の目が誰を追っていたか、ずっと見てき
ました。ですから、私は、あかね殿が友雅殿とこの京に残る決意をなさった時は、正直信じら
れませんでした…。あかね殿が追っていたのは、違う方でしたから…。そして、私は、その方も
あかね殿をお慕いしていると思いました。…泰明殿、あかね殿は、ずっとあなたを追っていまし
た。あなたは気付かなかったのかもしれませんが…」
 永泉の言葉に泰明は目を瞠る。
「何故、あの時、あかね殿に自分の思いを告げなかったのですか?」
「自分のこの思いが愛だと…、あの頃の私は知らなかった…。人間ではない私が、神子を好き
になる資格など、無い。思いを告げる資格も…」
 泰明のその言葉に永泉は、優しく微笑んだ。
「人を好きになるのに、資格など必要ない…。あかね殿が以前、私に言って下さった言葉で
す。誰かが誰かを愛しいと思うのは、自然なことです。それは、人間として、とても自然なことな
のです。私は、そう思います。物事には、遅すぎると言うことは無いのではないでしょうか? 泰
明殿…」
「そう…だろうか? 私の想いはあかねの幸せの邪魔にはならないだろうか?」
 それでもなお、泰明は不安げな顔で永泉を見る。
「どうして邪魔だと思うのですか? 泰明殿は、まだ何も行動を起こしてはいない。おもいは、思
うだけでは届かないのです。態度だけでは伝わらないのです。想いは、言葉で表さなければ
…。私は、泰明殿にそれをお伝えしたかったんです。どうするかは、泰明殿がご自分で判断な
さってください。それでは、長居をしてしまい、申し訳ありませんでした」
 そう言うと永泉は泰明に向かって深々と頭を下げる。
「……お前は、本当に強くなったな、永泉…。初めて会った頃のお前と、今のお前ではまるで別
人だ…」
 泰明が、ふと、昔を懐かしむように呟いた。
「いいえ。私は、まだまだ迷いが多く、未熟者です。ですが、人を愛することを知って、少しは変
われたのかも知れません」
 永泉は、泰明の言葉に苦笑を浮かべ、再び頭を下げると、屋敷を後にした。
「こんな私でも、少しはあの方達を救う手助けは出来たのでしょうか? 御仏よ…、どうか、皆が
幸せになれるよう、御力を御貸し下さい…」
 永泉は、手の中の数珠を願いと同じぐらい強く、握り締めた。

 「君がため<泰明sp>」再びです。これ以降は、泰明さんはどんどん出てきます。と言うか、本当、あと、一話か二話
で終わりますから、多分。神子は、泰明殿と友雅殿、どっちを取るのか…? 書いている本人にも、神子の真意が掴め
ません…(苦笑)。