君がため<十五>


 自分のとった行動は、間違ってはいなかったのだ…。
 友雅は、そう感じながらも、その真実を目の当たりにさせられるのは、辛かった。

 それからと言うもの、何をしても気が晴れなかった。何人の女を抱こうと、友雅は決して満た
されることはなかった。自分が本当に望んでいたのは、あかね一人…。何人抱こうと、誰であ
ろうと、友雅の心を満たしてはくれない。この渇望を潤してはくれなかった。 
 泰明の家へ行ったのは、あかねの姿を一目みたいと思ったからだった。
 泰明は、幸せにすると約束した。
 あかねが、幸せに笑っている姿を見たら、諦めがつくと思った。
 しかし、現実は違った。
 幸せそうな泰明とあかねの姿は、友雅の中の渇きを潤すどころか、ますます渇きを増させる
ばかりだった。
 あかねの幸せを望んでいたはずなのに…。
 自分に向けられていた微笑が、泰明に向けられているのを見た時、友雅は自分でも思っても
いなかった行動を取ってしまった。
 あんなことを言うつもりではなかった。
 幸せな姿を見たら、帰ろうと思っていた。
 しかし、あかねがあんまりにも幸せそうな顔をしていたから。自分には、見せなかったような
笑顔を泰明に向けていたのが気に入らなかった。
「このことが意味することは、君ならわかるだろう?」
 あかねを連れ戻したい一心で、脅すように言ってしまった。
 泰明とあかねの悪い噂など、全く耳にはしていなかった。宮中で耳にするのは、陰陽師殿の
仕事振りは、ますます素晴らしくなったようだということだけだった。
 あかねの存在が、泰明にそれだけの力を与えているのだと、感じさせられるだけだった。
 そうして無理やり手に入れたあかねは、友雅の前で全く微笑まない、表情の無い人形のよう
になってしまった。どうすれば表情を見せるのかと、かなり酷いことをした。それでも、あかねの
表情は変わらなかった。
 心が手に入らないのなら、体だけでも手に入れようと思った。
 その時になって強い拒絶を受けた。
 泰明と…、関係を持ったのだと、感じた。その事実は、友雅を激昂させた。
 無理やりにでも、その体を開いてやろうと思った。そんな風に思ったのは、初めてだった。
 しかし、泣いているあかねを見た途端、自分がしていることが、どんなにも無意味で虚しいこ
となのか、やっとわかった。
 それでも、泰明の元にあかねを返してやる気にはなれなかった。泰明は、あかねの心を手に
入れている。そして、あかねは友雅に自分の身に触れさせようとしない。心の無い、抜け殻とな
ってしまったあかねだが、それでも、自分の傍にいてほしいと、友雅は願わずにはいられなか
ったのだった。

                      続く