ひとり<二>


 あの日、あかねに会えないのなら、このままいっそ死んでしまえたら良いのに…と、泰明は思
っていた。
 しかし、泰明のそんな願いが叶えられることは無かった。

 泰明が次に目を覚ましたときは、病院の中だった。
 泰明を心配するように、彼の手をしっかりと握り、じっと見つめている女性がいた。
「母……さん……?」
 泰明は、自分の口をついて出たその言葉に驚いた。自分には、母などいない。しかし、確か
にこの女性を母だと泰明の脳は言っている。
「ああ……っ」
 そう言ってその女性は涙を流す。
「全く、あんなところで倒れているんだもの……。どうなることかと思ったわ……」
 そう言って、ホッとしたのか、少し表情を和らげる。
「本当に、あなたって子は子供の頃から全く変わらないんだから…。いろんなことに没頭するの
は構わないけど、倒れるまで星を眺めたりしないで頂戴」
「全く、母さんの言うとおりだ。お前は少し、夢中になりすぎるところがあるからな……」
 そう言って、傍らで男が困ったように笑った。
 どうやら、それは泰明の父親のようだった。

 この世界にやってきた泰明は、高校生として存在していた。
 この土地で病院を経営している父。そして、家庭的な母。それは、あの世界では手に入れる
ことの無かったものだった。
 龍神は、泰明に、この世界で生きていくための家族と知識を与えていたのだ。
 裕福な家庭、温かい家族。そして、優秀な学力。
 それら、全てが欲しかった物ではないという訳ではない。家族のありがたみというものを泰明
も感じてはいる。
「だが、龍神は、私が本当に欲しかった物は私には与えてくれなかったのだな……」
 それは、分不相応な願いだったからなのだろうか?
 何を引き換えにしても欲しいと願ったのに……。
  

                      続く