君がため<十六>


 とても不思議な気持ちだった。
 自分の中にあの頃からずっと消せずに残っているあかねへの思い。決してあかねに告げて
はいけないと思っていたこの気持ち。誰にも気づかれぬよう、うまく隠してきていたつもりだった
が、やはり永泉は自分の対だからなのだろうか? とうの昔から知られてしまっていたようだっ
た。
 そして、自分でさえ、封じ込めようとしていたこの思いを解き放つよう、永泉に言われるとは思
わなかった。
「思うだけでは伝わらない…か…。確かにそうかもしれぬな…」
 あかねへの思いは、決して消すことが出来ない思いだと気が付いていた…。だから、消すこ
とが出来ないなら隠し続けようと思った。
 自分は、誰よりもあかねを愛している。
 しかし、その思いは、あかねに気づかれてはいけないのだと、あの頃の泰明は信じ込んでい
た。
 人ではない自分が人であるあかねを幸せにすることは出来ないと思ったから。
 人ではない自分は、いつ朽ち果ててもおかしくない存在。
 そんな自分が、あかねに思いを伝えることなど許されないと思っていた。
 しかし、本当のところはどうだろう? 
 あかねは、どんな思いで自分と暮らしていたのだろう? 友雅の屋敷を出て、行くところもな
いから自分と暮らしていた…? 本当はどうなのか、それは泰明にはわからない。 怖くて聞く
ことが出来なかった。
 もし、本当にそうだとしたら? 
 仕方なく自分と暮らしているのだとしたら?
 自分の思いが迷惑だったとしたら? 
 あかねを好きになるまでは、こんな感情など抱くことはなかった。ただ正しいと言うことを行
い、その結果、自分がどんな気持ちになるかなど考えたこともなかった。
 感情など、手に入れなければ良かったと思ったこともあった。
 思いなど、自分が存在する上で障害でしかないと思った事も…。
 しかし、もう泰明はこの思いを手に入れてしまったのである。
 そして今、泰明は初めて自分のこの思いと向き合おうと決意した。たとえ、あかねに拒まれる
ことになろうと、自分のこの思いが確かに存在したのだと言うことを、しっかりと受け止めようと
思った。
「思いは、口にせねば、意味がない…」
 泰明は、決意したように立ち上がる。
 漆黒の闇の中、ただ月だけが道を照らしている。今、告げに行かねば、もう二度と告げること
が出来ない。そんな気がした…。


  続く

 年末なので、一気に更新しました。更新遅れてすみません。泰明さん、大活躍? するかなぁ…。来年は、玄武の
年になるよう頑張りたいものです(苦笑)。