君がため<十七>


  月明かりが友雅の部屋に差し込む。その美しさは、あかねの心に似ているようで、友雅は心
が痛んだ。
 自分がどれ程酷いことを二人にしているのか、自分でもよくわかっている。だから、辛い。あ
かねを見ているのも、あかねに触れるのも…。
 いっそ真実を言ってしまえたら、どれだけ楽だろうか? しかし、それはあかねとの永遠の別
れを示しているようで、友雅には到底出来ることではなかった。


「この屋敷に来るのは、これで二度目だな…」 
 泰明は、友雅の屋敷をじっと見据える。
「あの日は、あかねと二人この屋敷を後にした…。あかねは、私と共に来てくれるだろうか?」
 共に、来て欲しい…。泰明はそう願った。
 そして、ゆっくりと友雅の家の門をくぐった。
 静かだった。奇妙なぐらい静かだった。自分の心音がとても大きく感じられた。
「こんな遅くに誰かと思えば、泰明殿、君だったのかい…」
 そう言って友雅は、うっすらと笑みを浮かべる。本当は、いつかこんな日が来るのではないか
と、友雅はずっと思っていた。それと同時にこんな日が来なければ良いと…。
「夜分にすまない。どうしても、あかねと話がしたい」
 泰明の率直な言葉に、友雅は失笑する。
「こんな夜更けに、夫のある女性の元に、何の用があって来たんだい?」
 泰明はまっすぐに友雅を見つめる。そして答えた。
「あかねに、どうしても告げたいことがある」
 それは、迷いのない目だった。友雅は、思わず息を呑んだ。
「……ふぅん。さて、それはどんな思いなんだい?」
「私が、あかねを愛しいと思っていることだ」
「それをあかねに伝えたいって言うのかい?」
「ああ」
「ダメだと言ったら?」
「それでも、私は伝える」
「それが、あかねにとって迷惑だとしても? それでも、君は伝えると言うのかい?」
 月明かりの下で微笑む友雅はとても美しく、そして寂しく見えた…。


                       続く

 いよいよ、直接対決でございます。毎回毎回、本当に私の予測できない動きをしてくれます、彼らは…。今回も、予
想していなかった動きを…。年内に終わらせたかったのだが…。