君がため<十八>



  ぼんやりと月眺めていたあかねがそれに気が付いたのは、しばらく経ってからだった。 初め
は、また友雅が誰か女を連れてきているのだろうと思った。
 しかし、わずかに洩れ聞こえる声は女のそれではなかった。
「それ……える」
 耳を澄ませると、不思議とそれは泰明の声のように聞こえる気がした。
 こんなところに来るはずもないのに、私はいったい何を期待しているんだろう…。
 あかねは自分で自分を笑った。
 こんなにも泰明を焦がれていたなんて…、どうしていまさら思い知らされているのだろう。決し
て、告げてはならない思いだと言うのに…。
 自分の勝手で、どれだけ人を傷つければ、自分と言う人間は気が済むのだろう。
 友雅が口にした言葉が、今も頭を離れない。
「だから、君はずっとここにいるんだ…」
 微かに聞こえたその言葉。自分の聞き間違いかもしれない。しかし、本当だとしたら? それ
が友雅の真実の思いだとしたら? 
 自分はいったいどれだけ友雅を傷つけてきたのだろう。自分よりも大人で、いつも余裕のあ
るように見えたあの人を…。本当は、誰よりも傷つきやすいのではないかと思われるあの人を
…。
 どうして言えるだろう…? たとえ、泰明に嫌われていようと、泰明の元へ行きたいなどと…。
思うことさえ、許されないような
 そんな思いが聞かせている幻聴なのだとあかねは思った。
 友雅を傷つけ、泰明を傷つけた自分に、神が与えた甘美な罰なのだと…。
「あかねは、うんとは言わないよ」
 今度は、はっきりと友雅の声が聞こえた。
 幻聴ではない? 
 はっきりとした声にあかねは、思わず誘われるように歩き出していた。
「それでも構わない」
「それは、余りにも自分勝手だとは思わないかい? あかねは、自分の意思でここに来たんだ。
それなのに、今頃君にあかねを愛しているなんて言われてもねぇ。迷惑でしかないと思うが…?
 第一、あかねは私を愛しているから、この屋敷にいる。それは、君も感じていることなんじゃ
ないのか?」
 友雅が泰明にそう言うのを、あかねはただ黙って聞いていることしか出来なかった…。


                      続く

 う…うーん。書いている本人が本当にどのように転がっていくのか想像が付かない…。みんな幸せにしてあげたい
のですが、どちらかを立てれば、どちらかが立たず…。うーん…。まだしばらく続きそうですが、お付き合い頂けるとあ
りがたいです。