何も無い闇だった。
 音も、気配も何もない闇。
 ただそこにあるのは、自分という存在。
 ああ、私はやっと心安らかに死ぬことが出来るのだろう。
 一度死に、怨霊として蘇った魂は、すべての記憶を無くして消滅していくのだろうと、自分が
何者なのか、大切な人のことも全て忘れ、自分が確かにそこに存在したということさえも消えて
なくなるのだろうと、そう思っていた。
 しかし、違った。
 敦盛は、きっと忘れてしまうのだろうと思っていた、兄のことも仲間のことも、そして生涯で愛
することの出来た、たった一人の少女との記憶も、自分のこの内に残っていることを感じてい
た。
 自分が消えゆくとき、それはどんなものなのだろう。
 辛いのだろうか。
 苦しいのだろうか。
 それとも、何も感じなくなってしまっているのだろうか。
 敦盛は、いつか自分が消えゆく日のことを仲間とともに過ごしながら考えていた。
 神子への思いが強くなればなるほど、消滅する日が怖くなった。神子に出会わなければ、消
滅することを恐れることなどなかったのだろう。
 この思いは、告げることは出来なかったが、神子を守るために消滅できる自分は、なんと幸
せな生き物なんだろう。
 二度目の死は、なんと甘美なものなのだろう。
 敦盛は、望美と買った揃いの土鈴をギュッと握りしめる。
 彼女もこれを持っている。そのことが敦盛は嬉しくもあり、辛くもあった。彼女の中で自分は生
き続ける。
 しかし、彼女にとって、それは必ずしも良いこととは言いきれないだろう。たとえ、自分を忘れ
ても、この土鈴がある限り、彼女は自分を思い出してしまうだろう。
 それは、彼女にとって辛いことなのではないだろうか。
 しかし、彼女の土鈴を奪うことは、敦盛には出来なかった。
 辛くとも、自分という存在を彼女に覚えていてほしいという、敦盛のわがままだった。「すまな
い、神子・・・・・・」
 敦盛が、土鈴を握りしめる手にそう呟く。 
 そのとき、一筋の光が闇の中に差し込んだ。闇しかなかった世界が照らされ、色を持ち始め
る。
 彼女の声が聞こえる。自分の名を呼び続ける彼女の声。
 ああ、そんなに悲しい声で、私を呼ばないでくれ。
 あなたを抱きしめたいのに、私のこの手はあなたを抱きしめてあげることは出来ないのだか
ら・・・・・・。
 そんなに辛い顔をしないでくれ。
 あなたの笑顔を見たいのに、あなたを笑わせてあげることは出来ないのだから・・・・・・。 そ
んな風に泣かないでくれ。
 あなたの涙を拭ってあげることは出来ないのだから・・・・・・。
 ああ、私のこの体があなたの呼ぶままにあなたの元にゆけたらいいのに・・・・・・。
 敦盛がそう感じた瞬間、色を持ち始めていた世界は、一瞬で闇へと帰り、そして、眩いばかり
の光の世界へと変わった。
 敦盛は、自分の目に映る光景に言葉を失う。
 これは夢なのだろうか・・・。そうでなければ説明することが出来ない。
 愛しい彼女が、目の前にいる。
 敦盛は、そっと手を伸ばし、彼女を抱きしめる。
 温かい・・・・・・。人の肌だ。
 強く抱きしめると、彼女の手が自分を抱きしめる。
 ああ、私は戻ってきたのだ。彼女の元に。
 彼女を愛してもいいのだ・・・・・・。
 自分が存在しているということ、生きているということが、こんなにも自分を幸せにしてくれる
のだと、敦盛は生まれて初めて知ったような気がする。
 言いたいことは、言わなければなせないことはたくさんある。
 しかし、今一番伝えたいこと・・・・・・。
 それは、自分がこの世で最もあなたを愛する存在だということ・・・・・・。


「私、敦盛さんはきっと帰って来てくれるって信じてたよ」
 そう言って微笑む望美がここにいる。
「どうして?」
 望美が隣にいるということが、日常であることの幸福。
「だって、敦盛さんは優しい人だから」
「ありがとう・・・・・・」
 敦盛はそう言って望美の手に、自分の手を重ねる。温もりを通して、、自分がこんなにも幸福
な存在なのだということが、望美に伝わるような気がして・・・・・・。


  終わり

 敦盛さんのお誕生日も近いんで、初めて書いてみました。しかし、ちょっとネタバレですね、この話。ゲームだと、そ
の後どうなるかがわからないので、幸せな二人を書きたかったのですが、きちんと幸せになってるかしら?