重さを感じるというのは、変な言い方かもしれないが、あかねにとっては、空がどんよりとのし かかり、ひどく重く感じられた。 静かに自分の目を覆うようにまぶたに手を這わせれば、少し熱く熱を持っているのが感じら れた。 夕べ眠れずに何度も寝返りをうったことを彼は気づいていたのだろうか? 気づかれぬよう に身体を丸め、彼の優しく触れる指先にも反応せずに、規則正しく寝息を立てていたつもりだ ったが、優しすぎる彼のことだ。自分が眠っていないことも眠っている振りをしていたことも気づ いていたのかもしれない。 自分が聞いてしまったことを彼に告げれば、優しい彼は苦渋の選択をすることになるのだろ う。優しすぎる彼は、同時に傷つきやすい。自分のために、彼が悩む姿を見たくはなかった。 目を覆う手が僅かに濡れる。涙が零れてしまうのを堪えるように、あかねはずっと上を見よう と顔を上げるが、零れ始めた涙は次から次へと溢れだし、哀しい予感をあかねに与えた。 足を一歩進める度に、涙が一つ零れてくる。それはやがて足元を濡らす。 あかねは、声を抑えて歩き続けた。 「まあ、まあ、神子様……。あっ、いけませんわ、もう神子様ではないのに……」 自分の言葉に苦笑しながら藤姫が言うのに、あかねは懐かしそう目を細める。 「ううん。そういう風に呼んでくれるの、もう、今は藤姫ぐらいだから、私は嬉しい。懐かしいし」 その微笑みに何かを感じたのか、藤姫の表情が僅かに曇る。 「何か、あったのですか?」 「ううん。何でもないよ」 努めて明るく言ったつもりだったが、誤魔化しきることは出来なかったようだった。 藤姫の顔が哀しみに歪む。 「私、何があったのか無理に聞こうとは思いませんわ。ですが、神子様にとって、辛いことがあ ったときには、いつでも力になりたいと思っていることは覚えていていただけると嬉しいです。私 は、いいえ、私だけでなくみんなが神子様には、いつも笑っていてほしいと思っているんですか ら」 ありがとう。そう、笑顔で答えようとしたとき、あかねの視界が歪む。頭が重いと感じた瞬間、 あかねの身体から静かに力が抜けていき、視界が一気に真っ暗になった。 続く |